ビル・アックマンは、Wall Street で 最も声の大きい投資家だ。標的企業を公開市場で攻撃し、CNBC に出演して論陣を張り、X で 100 万フォロワーに毎日語りかける。
正しい投資判断は、いつも少数派だ
ハーバード卒のヘッジファンド経営者、Pershing Square Capital Management を 2004 年に創業。$13B 規模の運用資産を持ち、過去 20 年でカナディアン・パシフィック鉄道、Wendy's、Burger King、Allergan、Chipotle、Hilton など多くの企業に介入。勝ちと負けが派手に表面化する特異な投資家だ。
ハーバードから、初めてのファンド失敗まで
1966 年、ニューヨーク市郊外のチャパクアでユダヤ系の家庭に生まれる。父は 不動産金融業者(Ackman-Ziff Real Estate Group の経営者)で、幼少期から金融の話題が日常だった。ハーバード大学で歴史を学び、卒業後の 1990 年に ハーバード MBA。
1992 年、26 歳で同級生の David Berkowitz と Gotham Partners を創業。当初は順調で運用資産 $500M まで成長したが、1990 年代後半に Gotham Golf の不振、PE 取引の失敗が重なり、2002 年に解散。アックマンにとって初めての公的失敗だった。
2004 年、再起を期して Pershing Square Capital Management を創業。資金 $54M で始め、最初の成功は Wendy's に Tim Hortons をスピンオフさせる戦い。続いて General Growth Properties の倒産防衛で 100 倍リターン、カナディアン・パシフィック鉄道で取締役会を入れ替えて経営を大刷新。「活動家投資家」というカテゴリで Carl Icahn、Daniel Loeb と並ぶ存在に。
勝ちと負けが派手に表面化する投資家
アックマンの 20 年を象徴する戦いは 3 つある。
1. Herbalife ショート(2012〜2018 年): 栄養補助食品の MLM 企業 Herbalife が 「ピラミッド・スキーム」だと主張し、$1B 規模のショートを組成。Carl Icahn が逆サイドで Longを取り、両者は CNBC で罵り合った。5 年戦って Herbalife の株価は持ち堪え、アックマンが負けを認めて撤退。「公開市場で公開戦争を仕掛ける」スタイルの代名詞となった戦いだ。
2. Valeant Pharmaceuticals(2015 年): 製薬会社 Valeant に大規模投資。同社が 薬価釣り上げ・買収依存モデルで批判されると、株価は 90% 暴落。Pershing Square は $4B の損失を出し、アックマンは投資家への謝罪文を出した。
3. コロナ CDS(2020 年): 2020 年 3 月、コロナ拡大初期に クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)に $27M 投資。市場暴落で $2.6B(約 100 倍)の利益を回収。これがヘッジファンド史に残る「伝説のトレード」となった。
X の論客、政治的発言の増加
2023 年以降のアックマンの最大の話題は、投資家としてではなく言論人としての発言だ。ハマス・イスラエル戦争を巡って X で激しいコメントを連発し、ハーバード大学のクローディン・ゲイ学長辞任に重要な役割を果たした。フォロワー数は 100 万人を超え、「Wall Street の右派論客」と見られるようになる。
SNS は私の最大の投資ツールではない。だが、私の最大の発信ツールではある
これが投資家としての評価を二極化させた。「経営者として鋭い」という旧来評と、「政治的になりすぎている」という新しい批判が並走している。2024 年に Pershing Square USA(公開上場ファンド)の IPO を $25B 規模で計画したが、市場の反応が冷たく 撤回。「言論活動が IPO の妨げになった」という見方が業界で広がった。
社内の Pershing Square は 少人数(30 名程度)の精鋭組織。アックマン本人がほぼ全ての投資判断を下す。「彼が間違えば、ファンド全体が間違える」キーパーソンリスクは依然として大きい。
公開市場活動家モデルの将来
アックマンの戦略の課題は 「公開市場での声」が以前ほど効かなくなっていること。SEC の規制強化、上場企業のディフェンス強化、株主構成の機関投資家化により、「アックマン一人が CEO を変えさせる」シーンは過去ほど起きない。
実際、Pershing Square のここ 5 年の戦略は 長期保有重視にシフト。Hilton、Chipotle、Restaurant Brands International(Burger King、Tim Hortons)など、「ガバナンス改善後に長期保有」する銘柄が中心になっている。「活動家」から「集中投資型ヘッジファンド」へ、徐々に変質している。
そして 言論活動と投資成果の両立。アックマンの 2024 年 IPO 撤回は、「言論で味方を増やせば、投資先を増やせる」モデルが必ずしも成立しないことを示した。多くの機関投資家は「政治的すぎる投資家」を敬遠する現実が浮上した。
読み終わりに
アックマンの面白さは、「公開市場の戦士」というスタイルを 20 年貫いてきた点にある。Carl Icahn と並んで「Wall Street で最も派手に勝ち負けする投資家」。Herbalife で 5 年負け、Valeant で $4B 失い、コロナで $2.6B 得る。全ての判断が公開される投資家のリスクとリターンを体現している。
Pershing Square のリターンを見るときは、四半期成績より 保有銘柄の上位 5 社の進捗と アックマンの公開発言の方向性を読むと、見え方が変わる。アックマンが残す最後の作品が 「公開市場 + 長期保有」モデルの完成なのか、それとも 政治家転身なのか — そこに次の 10 年が見える。





