本文へ移動
ケン・グリフィン
Ken Griffin
Citadel
投資家

注文の裏側にいる人

ケン・グリフィンKen Griffin

創業者・CEO生年 1968米国・フロリダ州デイトナ・ビーチ
2026.06.237 分で読める内容確認 2026.08.26

寮の屋根にアンテナを立てて取引を始め、シタデルを設立来の利益で史上最大の運用会社に育てた。米国の個人の株注文の約35%を引き受ける値付け会社も、同じ人の持ち物である。

ヘッジファンドマーケットメーカークオンツ
この記事の流れ(全6章)
  1. 01個人の注文の約35%が、一社に集まっている
  2. 02寮の屋根にアンテナを立てた19歳
  3. 031年で半分を失った年に、出口を閉じた
  4. 04出ないことで、名前を作った
  5. 05危ういのは、いちばんうまくいっている場所
  6. 06名前は取引明細に出てこない

証券アプリで「買い」を押す。その注文は、たいてい取引所へは行かない。ある一社に吸い込まれ、その場で相手が付く。会社の名をシタデル・セキュリティーズという。

作ったのはケン・グリフィン。顔を知る人は少なく、テレビにもまず出ない。それでも米国の株式市場は、この人の会社なしには回らない。

あなたが押した「買い」は、どこで株になるのか
アプリで買い注文
証券会社の画面をタップする
証券会社が転送
取引所ではなく値付け業者へ
その場で相手になる
シタデル・セキュリティーズが売り手役を引き受ける
売買の差が残る
1回はごく小さい。回数が桁違い
値付け業者は取引所の外で注文を引き受ける。取引所で相手を探すより速く、証券会社は売買手数料を取らずに済む
01

個人の注文の約35%が、一社に集まっている

シタデル・セキュリティーズは「値付け業者」と呼ばれる会社だ。株を買いたい人にも売りたい人にも、その場で相手になる。

取引所で相手が現れるのを待たなくていい。だから注文はすぐ成立する。押した瞬間に買えたと感じるのは、この仕組みのおかげである。

儲けはどこから出るのか。買う値段と売る値段の、ごくわずかな差である。1回では取るに足らない額だ。

同社は、米国に上場する株のうち個人投資家の注文の約35%を引き受けていると開示している。小さな差が、その回数だけ積み上がる。

米国の個人投資家が出す株の注文は、どこで成立しているか
シタデル・セキュリティーズ35%その他65%
同社の開示による概数。残りは他の値付け業者と取引所に分かれる

証券会社の側にも理由がある。注文を回す見返りに、値付け業者から代金を受け取れるからだ。これを注文回送料(Payment for Order Flow)という。

ロビンフッドチャールズ・シュワブの「手数料ゼロ」は、この仕組みに支えられている。ゼロになったのではなく、払う人が変わった。

数字で読む
個人注文のシェア
35%
米国上場株・同社開示
取引収入
$12.2B
2025 年・過去最高
設立来の投資家利益
$90.4B
運用会社として史上最大
個人資産
$52.2B
フォーブス調べ
02

寮の屋根にアンテナを立てた19歳

1968 年、フロリダ州デイトナ・ビーチに生まれる。父はゼネラル・エレクトリックの経理担当だった。

1987 年、ハーバード大学の2年生だったグリフィンは、株価を遅れなく受け取る手段を欲しがった。

そこで寮の屋根に受信用の皿型アンテナを立てる許可を取る。配線は窓とエレベーターの縦穴を通り、2階の自室まで引かれた。

家族と知人から $265K を集め、最初のファンドを立ち上げる。狙いは転換社債の裁定取引だった。

株に交換できる社債と、その株そのもの。両者の値段はときどきズレる。そのズレを取りにいく取引である。

  1. 1968
    フロリダ州デイトナ・ビーチで生まれる
  2. 1987
    ハーバードの寮で取引を始める(19 歳)
    屋根のアンテナで株価を受け取った
  3. 1990
    $4.6M の元手でシタデルの前身を創業(22 歳)
  4. 2002
    シタデル・セキュリティーズを設立、値付けの商売へ
  5. 2008
    旗艦ファンドが1年で約 55% を失い、解約を止める
  6. 2012
    2008 年の損失を取り返し、過去最高を更新
  7. 2021
    ゲームストップ騒動でメルビン・キャピタルへ出資
  8. 2022
    本社をシカゴからマイアミへ移すと社員に告げる
  9. 2023
    母校ハーバード大学へ $300M を寄付
  10. 2025
    シタデル・セキュリティーズの取引収入が $12.2B で最高
  11. 2026
    設立来の投資家利益が $90.4B に達する

この学生の成績を聞きつけたのが、シカゴの運用会社グレンウッド・パートナーズを率いるフランク・メイヤーだった。

メイヤーはまず $1M を預けて運用させた。1年目の成績は7割の利益。1990 年 11 月、$4.6M の元手でグリフィンは自分の会社を興す。22 歳である。

03

1年で半分を失った年に、出口を閉じた

2008 年、シタデルの旗艦ファンドは1年で約 55% を失った。世界の金融が凍りついた年である。

投資家からは解約の申し出が相次いだ。グリフィンはそこで解約を一時停止する。安値で資産を投げ売りするしかなくなる事態を避けるためだった。

この判断は激しく批判された。預けた金を引き出せない側から見れば、当然の反発である。

それでも会社は生き延びた。翌年に大きく戻し、2008 年の損失を取り返して過去最高を更新したのは 2012 年 1 月だった。

生死を分けたのは、危機の前に詰めておいた資金の借り方だった。取引先との条件を厳しくしていたため、貸し手が一斉に引き上げる事態は起きなかった。

1990 年の元手と、35 年で投資家に渡した利益
1990 年の元手$4.6M
35 年間で投資家に渡した利益$90.4B
設立来の純利益は LCH インベストメンツ調べで、運用会社として史上最大。手数料を引いたあとの年率は 19.2% とされる
04

出ないことで、名前を作った

グリフィンは講演にも SNS にもほとんど出ない。それでも名前が世に出る道を、彼は3つ持っている。

1つ目は寄付。2023 年に母校ハーバード大学へ $300M を寄付し、大学院の1つに彼の名が付いた。同大学への寄付は 40 年で $500M を超える。

2つ目は収集。2021 年、アメリカ合衆国憲法の最初の印刷版を $43.2M で落札した。書籍や文書の落札額としては世界最高である。

3つ目は政治。米国の共和党側で最大級の個人献金者の一人として知られている。

そして 2022 年、本社をシカゴからマイアミへ移すと社員に告げた。治安と政治への不満を、彼は隠さなかった。

マイアミは活気にあふれ、成長を続ける都市だ。ともに未来を築こうとする人々に何ができるか、その可能性を体現している

ケン・グリフィン(2022 年 6 月、社員へのメモ)

それでもニューヨークを見限ったわけではない。2026 年、税制を巡って市長と公に衝突したのちも、パーク街に建てる超高層ビルへ $4.5B を投じる計画を進めると表明した。腹を立てても、儲かる街は手放さない。

社内は徹底した実力主義で知られる。報酬は業界でも最高水準だが、成績が出なければ長くはいられない。

05

危ういのは、いちばんうまくいっている場所

弱点は失敗の側ではなく、成功の側にある。稼ぎ頭である値付けの商売が、個人投資家の注文の流れに強く寄りかかっている。

その流れは規制ひとつで細くなる。米国の証券取引委員会は、個人の注文を競争入札にかける案を検討していた。

だが 2025 年 6 月、その案は正式に取り下げられた。当面の圧力は退いたが、当局の顔ぶれが変われば戻ってくる話でもある。

もう1つは後を継ぐ人である。値付け会社の側にはペン・ジャオという最高経営責任者がいて、2017 年から任にある。

一方、運用会社の側を継ぐ人物は表に出ていない。2つの商売を1人で束ねる形は、そもそもグリフィンのために作られたからだ。

06

名前は取引明細に出てこない

グリフィンの名は、あなたの取引明細のどこにも出てこない。それでも「買い」を押すたび、注文の向こう側には誰かが立っている。

手数料ゼロは、誰も稼いでいないという意味ではない。誰が稼いでいるかが見えないだけだ。

だからこの人を追うなら、シタデルの年間成績より先に、手数料ゼロがいつまで続くかを見るとよい。ゼロを支えているのが、ほかならぬ彼の会社だからである。

出典:

  • Citadel — Who We Are(設立年・運用体制) — https://www.citadel.com/who-we-are/
  • Citadel Securities — Equities(個人注文のシェア) — https://www.citadelsecurities.com/what-we-do/equities/
  • Harvard Gazette「Kenneth C. Griffin makes gift to FAS」(2023 年 4 月・$300M) — https://news.harvard.edu/gazette/story/2023/04/kenneth-c-griffin-makes-gift-of-300-million-to-fas/
  • Fortune「Read the memo Ken Griffin sent to Citadel's employees」(2022 年 6 月・マイアミ移転) — https://fortune.com/2022/06/23/read-the-memo-ken-griffin-sent-to-citadels-employees-outlining-the-companys-plan-to-leave-chicago-for-miami/
  • U.S. Securities and Exchange Commission — Order Competition Rule(2025 年 6 月に撤回) — https://www.sec.gov/rules-regulations/2025/06/order-competition-rule
  • Fortune「After months of a public back and forth over Mamdani's pied-à-terre tax, Ken Griffin isn't ready to give up on New York after all」(2026 年 8 月) — https://fortune.com/2026/08/05/ken-griffin-citadel-zohran-mamdani-new-york-tax/
  • 24/7 Wall St.「Ken Griffin Threatened to Walk Away From NYC Amid a Feud With Mamdani. Citadel Just Committed $4.5 Billion Instead」(2026 年 8 月) — https://247wallst.com/investing/2026/08/18/ken-griffin-threatened-to-walk-away-from-nyc-amid-a-feud-with-mamdani-citadel-just-committed-4-5-billion-instead/
公開情報(各社開示・公的資料・各種報道)を編集してまとめたものです。 人物評価には筆者の解釈を含みます。投資判断は別途、自身の責任で行ってください。