この記事の流れ(全4章)
2026 年 3 月 18 日、ボブ・アイガーは最高経営責任者の席を降りた。一度引退し、呼び戻され、そしてもう一度降りた。通算 18 年の任期の終わりである。
彼がディズニーにしたことは、一言でいえば買い物だった。
自分で新しい物語を作るより、すでに愛されている物語を、会社ごと買った。主要な 4 社に払った額は合計 $87B にのぼる。
その買い物が効いた前半と、効かなくなった後半。同じ経営者の成績がこれほど割れた例は珍しい。
$87B を払って、他人が育てた物語を買った
1951 年、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。父は広告の仕事をしていた。
イサカ大学でテレビとラジオを学び、1974 年に米三大放送局の一つ ABC に入る。スタジオの現場係からの出発だった。
1995 年、ディズニーがその ABC を $19B で買収する。アイガーは買われた側の経営者として残り、1999 年に最高執行責任者へ上がった。
2005 年、最高経営責任者に就任。前任マイケル・アイズナーによる 21 年の長期政権が終わった直後だった。
就任から数か月で、最初の大きな買い物に動く。アニメ制作会社のピクサーである。
ピクサーは、傾いていたディズニー自身のアニメ部門を立て直した。『塔の上のラプンツェル』も『アナと雪の女王』も、その後に生まれている。
マーベルを買ったときの評判は悪かった。ヒット作がまだ 1 本しかない会社に $4B は高い、というのが当時の相場観だった。
フォックスは性格が違う。作品を得ると同時に、動画配信フールーの主導権を取りに行った買収である。
1 期目 +477%、2 期目 +9%
後半が伸びなかった理由は、どれもアイガー自身が作った条件だった。
ひとつは借金である。フォックス買収で背負った負債が、そのまま会社の身軽さを奪った。
次に配信。2019 年に始めたディズニープラスは、5 年間で $11B 近い営業赤字を積み上げた。黒字に転じたのは 2024 年度である。
そしてケーブルテレビの縮小。買い集めた物語を流していた有料放送そのものが、視聴者ごと細っていった。
コロナ禍も重なった。テーマパークと映画館という、この会社がいちばん強い 2 つの現場が同時に止まった。
引き継ぎに一度しくじり、4 年かけてやり直した
2020 年 2 月、アイガーは退任を発表する。後任にはテーマパーク部門出身のボブ・チャペックを選んだ。
その 2 年は荒れた。施設の休業、配信への過剰な投資、フロリダ州政府との政治的な衝突が続く。
2022 年 11 月、取締役会は緊急の会議でチャペックを解任し、アイガーを呼び戻した。
私は会社の状態を見て、戻る必要があると判断した。これが正しい判断だったか、歴史が決める
戻ったアイガーがやったのは、買い足すことではなく整理だった。7,000 人の人員削減と配信の値上げで、赤字続きだった配信を黒字へ押し上げた。
2025 年にはフールーの残り 3 割をコムキャストから買い取り、完全子会社にしている。
同時に、物言う株主のネルソン・ペルツから 2 度にわたり取締役の席を求められ、2024 年の株主総会で退けた。
そして 2026 年 2 月、ようやく後継者を指名する。テーマパーク部門を率いてきたジョシュ・ダマロだった。
- 1951ニューヨーク州ロングアイランドで生まれる
- 1974米放送局 ABC に入社、スタジオの現場から始める
- 1995ディズニーが ABC を $19B で買収、傘下に入る
- 1999ディズニーの最高執行責任者に就任
- 2005最高経営責任者に就任、アイズナー時代が終わる
- 2006ピクサーを $7.4B で買収スティーブ・ジョブズと直接交渉
- 2009マーベルを $4B で買収
- 2012ルーカスフィルムを $4.05B で買収、スター・ウォーズを手に入れる
- 201921世紀フォックスを $71.3B で買収自社史上最大の買い物
- 2019ディズニープラスを開始、動画配信に参入
- 2020退任し、ボブ・チャペックへ引き継ぐ
- 2022取締役会がチャペックを解任、アイガーが復帰
- 2024ネルソン・ペルツの取締役会入りを株主総会で退ける
- 2025コムキャストからフールーの残り株を買い取り、完全子会社に
- 2026ジョシュ・ダマロへ交代、上級顧問として年末まで残る
- 20268月、「ディズニー・レジェンド」に選出。ディズニーランドに個人名の窓を得る
置いていった宿題と、この株の読み方
新しい社長がテーマパーク出身なのには理由がある。いまのディズニーは、利益の 6 割近くを人が足を運ぶ場所から得ているからだ。
宿題の筆頭はスポーツ放送である。ESPN が有料放送局から受け取る配信料は、2025 年度に契約者の減少で 8% 目減りした。
値上げでほぼ穴埋めしたものの、契約者が減り続ける限り同じ手は続かない。2025 年 8 月には単体の配信サービスを月 $29.99 で始めた。
もうひとつはテーマパークの競争だ。ユニバーサルがフロリダに新しい大型施設を開き、上海と香港の客足も戻り切っていない。
ディズニーの株を見るなら、四半期の売上より 2 つを追うとよい。配信の利益が積み上がっているかと、テーマパークの利益が前年を割っていないかである。
アイガーの 18 年は、他人が育てた物語を買って束ねる時代だった。次は、買ったものを回して稼ぐ時代になる。
その切り替えができたかどうかは、彼自身の任期ではなく、彼が選んだ後継者の成績で採点される。「誰に渡すか」を二度も間違えれば、帝国は買い物の代金だけが残る。
出典:
- The Walt Disney Company「Josh D'Amaro Named Next Chief Executive Officer of Disney」 — https://thewaltdisneycompany.com/news/disney-ceo-announcement/
- The Walt Disney Company Reports Fourth Quarter and Full Year Earnings for Fiscal 2025 — https://thewaltdisneycompany.com/press-releases/the-walt-disney-company-reports-fourth-quarter-and-full-year-earnings-for-fiscal-2025/
- The Walt Disney Company Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001744489&type=10-K
- ESPN Press Room「ESPN's Direct-to-Consumer Service and Enhanced App Launching August 21」 — https://espnpressroom.com/us/press-releases/2025/08/espns-direct-to-consumer-service-and-enhanced-app-launching-august-21/
- The Walt Disney Company「Bob Iger Honored with a Window on Main Street, U.S.A.」(2026年8月) — https://thewaltdisneycompany.com/news/bob-iger-main-street-window-disneyland/




