「Disney の CEO は一度引退して戻ってくる」。ボブ・アイガーは 2005〜2020 年の最初の在任、引退、後継者ボブ・チャペックの失敗を経て、2022 年に 緊急復帰した。
ブランドは作るのに数十年、壊すのに数ヶ月
最初の 15 年で Pixar($7.4B)、Marvel($4B)、Lucasfilm($4B)、21st Century Fox($71B)を買収し、Disney を「世界最強のコンテンツ帝国」に作り直した。再就任後の 3 年は Disney+ の収益化、コスト削減、後継者選定に費やしている。
TV プロデューサーから Disney CEO へ
1951 年、ニューヨーク州ロングアイランドのユダヤ系家庭で生まれる。父は広告会社の幹部で、若い頃から「メディア業界の現場」を見て育った。イサカ大学でテレビ・ラジオ専攻、1974 年に ABC(American Broadcasting Company)の新人スタッフとして入社。
ABC でスポーツ部門 → 番組編成 → 経営幹部と昇格。1995 年に Disney が ABC を $19B で買収、アイガーは Disney 傘下の ABC 経営者として残った。マイケル・アイズナー(当時の Disney CEO)の右腕として 1999 年に COO、2005 年に Disney CEO 就任。アイズナー長期独裁の終焉だった。
CEO 就任直後の最初の動きが、Pixar の $7.4B 買収(2006 年)。スティーブ・ジョブズと交渉し、Disney Pixar Studios の体制を組み直した。続いて Marvel ($4B, 2009)、Lucasfilm ($4B, 2012)、21st Century Fox ($71B, 2019) と立て続けに大型 M&A を成功させ、Disney は「IP(知的財産)の帝国」となった。
Pixar、Marvel、Lucasfilm、Fox — 「IP の帝国」の作り方
アイガーの 15 年(2005〜2020)は 史上最も成功した連続 M&Aとして記憶されている。
Pixar(2006): $7.4B でジョブズから買収。Disney アニメの再生を Pixar の制作チームに任せ、『塔の上のラプンツェル』『アナと雪の女王』『ベイマックス』『Zootopia』などのヒットを連発。
Marvel(2009): $4B で買収。当時の Marvel は アイアンマン 1 作の興収頂点直後で「まだ価値が明確に見えない」買収と言われた。だが Marvel Cinematic Universe(MCU)は 全 30 作以上、興収累計 $30B 超。「史上最高の M&A の一つ」として殿堂入り。
Lucasfilm(2012): $4B。ジョージ・ルーカスから Star Wars と Indiana Jones を取得。『フォースの覚醒』『ローグ・ワン』『マンダロリアン』など。
21st Century Fox(2019): $71B。Disney 史上最大の買収。Fox の映画スタジオ、X-Men、Avatar、National Geographic、Hulu の 30% 株式を取得。Comcast との競争入札に勝った。
これら全てを Disney+ という配信プラットフォームで統合する戦略が、最初の 15 年の完成形だった。
「完璧な後継者選び」の失敗と、復帰
アイガーは 2020 年 2 月に CEO 退任を発表、後任に ボブ・チャペック(Disney Parks 出身)を指名した。だが チャペックの 2 年は混乱の連続。コロナでテーマパーク閉鎖、Disney+ への過剰投資、Florida 州知事 Ron DeSantis との政治対決、社内文化問題の不満。2022 年 11 月、Disney 取締役会が緊急会議でチャペックを解任、アイガーを呼び戻した。
私は会社の状態を見て、戻る必要があると判断した。これが正しい判断だったか、歴史が決める
再就任後のアイガーは 「コスト削減 + 戦略再焦点」に集中。人員 7,000 名削減、Disney+ の値上げ、Hulu の完全買収、ESPN の戦略再考。同時に 活動家投資家 Nelson Peltz(Trian Partners)が 2 度にわたって取締役会を狙う戦いを乗り越えた。
そして 「2 度目の引退」の準備。CEO 任期は当初 2024 年末まで、その後 2026 年末まで延長。後継者選定がほぼ全ての社内議題の中心になっている。
後継者問題と、ESPN の独立化
Disney の最大の課題は 後継者。ジェームズ・ピタロ(スポーツ部門責任者)、ダナ・ウォルデン(エンタメ部門)、アラン・バーグマン(映画部門)、ジョシュ・ダマロ(Parks 部門) の 4 名が「4 強」と呼ばれる候補。2026 年初頭までに発表が予定されているが、まだ明示はない。
第二のリスクは ESPN の独立化。Disney 最大の収益部門 ESPN(スポーツチャンネル)は ケーブル TV 加入者減で長期的減収トレンド。アイガーは 2025 年に ESPN+ という独自配信サービスの本格化で対応中だが、スポーツ放映権コストの高騰(NFL、NBA、UFC、F1 など)が収益を圧迫する。「ESPN を Disney から分離するか」が経営判断の選択肢に挙がる。
そして テーマパーク事業の競争。Universal Studios(NBCUniversal)が Epic Universe(フロリダ)を $7B で開業、香港ディズニーランド、上海ディズニーランドへの中国客減少。Parks 事業がコロナ前のピークに戻りにくいという慢性的問題が残る。
読み終わりに
アイガーの面白さは、「20 年単位で完璧な戦略を実行した経営者が、引退時に判断を誤った」点にある。最初の 15 年で Disney を コンテンツの帝国に作り直した功績は誰も否定しない。だが、「自分の代わりに誰が経営するか」の判断だけは外した。これを 2022 年の復帰で修正中だが、4 年経っても完了していない。
Disney の株を見るときは、四半期売上より Disney+ の有料加入者数と ESPN/ケーブル TV 部門の縮小ペースを読むと、見え方が変わる。アイガーが残す最後の作品が 「次世代 CEO への正しい引き継ぎ」そのものだ。Disney の次の 10 年は、新 CEO がアイガーの遺産を活かせるかにかかる。





