2010 年、リーマン危機の混乱で 訴訟・住宅ローン不正・規制違反にまみれた Bank of America を引き受けたのが、ブライアン・モイニハンだった。14 年経って、株価は当時の 3 倍を超え、米国 2 位の銀行として安定した収益を出している。
信頼を取り戻すのに 10 年、それを保つのにまた 10 年
派手な戦略はない。法廷で和解し、悪い貸出を整理し、コストを削り、コンプライアンスに大金を投じる。14 年間、地味な再建を続けた結果、BofA は再び米国の主要消費者銀行・投資銀行の両輪を取り戻した。
弁護士から銀行経営者へ
1959 年、オハイオ州マリエッタで生まれる。父は地元の小さな機械販売会社の経営者、母は教師。Brown 大学でラテン語と歴史を学ぶ。卒業後の進路として珍しく ノートルダム・ロースクールへ。法律学位を取得し、1984 年に 法律事務所 Edwards & Angell に入所、企業法務担当の弁護士になる。
1993 年に FleetBoston Financial(マサチューセッツ州ボストンの地方銀行)に法務担当として入社。その後、法務・コンプライアンス → ウェルス管理 → 投資銀行と段階的に責任範囲を広げる。「弁護士から始まったが、銀行業のあらゆる部門を内側から経験した」異例のキャリアだ。
2004 年、FleetBoston が Bank of America に合併され、モイニハンは BofA の幹部に。消費者銀行、投資銀行、ウェルス管理(Merrill Lynch 統合)などを順に率いる。そして 2009 年、ケン・ルイス CEO がリーマン危機後の住宅ローン責任で辞任、後任に指名されたのが 50 歳のモイニハンだった。
14 年かけた「悪いものを片付ける」
モイニハンの 14 年は、ほぼ 「悪い負債と訴訟を片付ける」期間だった。
2008 年に BofA が買収した Countrywide Financial(住宅ローン大手)は、サブプライム危機の張本人で、買収後に 訴訟と規制違反の山を BofA に持ち込んだ。司法省、各州司法長官、住宅ローン投資家からの訴訟が積み重なり、2010〜2014 年の累計訴訟・和解費用は $70B を超えた。
モイニハンの 14 年は、毎四半期、和解金を支払い続けることから始まった。2014 年の司法省との $16.65B 和解で大きな峠を越え、ここから収益が安定的に出始める。
並行して コスト削減。人員 12% 削減、支店 5% 削減、IT への再投資。「Project New BAC」と呼ばれた効率化プログラムで、年間運営費を $80 億削減した。地味だが、これが今の高 ROE 体質を作った。
「Responsible Growth」を 14 年繰り返す
モイニハンの社内スローガンは 「Responsible Growth(責任ある成長)」。「リスクを取らずに成長する」「コスト効率を保ったまま伸ばす」「社員を大事にする」「社会的に責任を持つ」の 4 原則。これを 14 年間、決算説明会のたびに繰り返してきた。
銀行は地域社会と一緒に成長する。地域が衰えれば、銀行も衰える
経営スタイルは 「派手さがない、ただ実行する」。ダイモン(JPM)が決算説明会で経済論を語り、ソロモン(GS)が大局戦略を語るのに対し、モイニハンは「今四半期の費用効率は X%、来年も同じ目標」とひたすら数字を出す。Wall Street は「最も予測しやすい銀行 CEO」と評する。
社外活動は限定的だ。世界経済フォーラムや経団連的な場での発言は少ない。代わりに 米国内の地域コミュニティ、退役軍人雇用、住宅金融政策などに重点を置く。「BofA は米国の銀行だ、米国に集中する」を貫いている。
後継者問題と、デジタル化の遅れ
モイニハンは 66 歳。健康問題は表に出ていないが、後継者問題は市場の最大の関心事。社内候補としては デニス・ボロウィエック(戦略担当)、アロイス・ピロス(投資銀行)、マシュー・コーダー(市場部門) などが挙がる。「2026〜2028 年のどこかで交代」が市場のコンセンサスだが、明示はない。
第二のリスクは デジタル化の競争。BofA はモバイル銀行アプリ Erica(AI チャット型アシスタント)を 2018 年に発表し、ユーザ数は 4,200 万人超。それでも Chime、SoFi、Cash App といったデジタル専業銀行が若年層を奪っており、BofA の若年層シェアは徐々に減っている。
そして AI 統合。JPMorgan が CFO 部門・トレーダー支援への AI 活用を派手に発表する中、BofA は「Responsible AI」を強調して慎重姿勢。「遅れているのか、慎重なのか」の評価が分かれる。モイニハンは「我々は急がない、確実に統合する」を繰り返している**。
読み終わりに
モイニハンの面白さは、「14 年間、目立たないまま、地味な再建を続けた」その粘り強さにある。シリコンバレー的なドラマもなく、ダイモンのようなカリスマもなく、ただ「毎四半期、約束した数字を出す」だけ。それが米国 2 位の銀行を蘇らせた。
Bank of America の株を見るときは、四半期利益より 金利感応度(金利上下で利益がどう動くか)と 後継者発表のタイミングを読むと、見え方が変わる。モイニハンが残す最後の作品が JPM に並ぶ ROE を実現することなのか、それとも AI 時代の銀行モデルの構築なのか — そこに次の 5 年が見える。





