この記事の流れ(全4章)
2010 年 1 月にブライアン・モイニハンが引き継いだのは、銀行というより未払いの請求書の束だった。訴訟、焦げついた住宅ローン、政府との交渉。16 年後、その会社は年 $30B を稼いでいる。
弁護士が、就任1年目に赤字を出す
1959 年、オハイオ州マリエッタ生まれ。8 人きょうだいの 6 番目に育った。ブラウン大学では歴史を専攻し、ラグビー部の共同主将を務めている。
進路は法律だった。ノートルダム大学のロースクールを出て、企業向けの弁護士になる。銀行で働き始めたのは 1993 年、34 歳のときである。
勤め先はボストンの地方銀行フリートで、肩書きは法務の副責任者だった。2004 年にその銀行がバンク・オブ・アメリカに買われ、そのまま大手の幹部になる。
- 1959オハイオ州マリエッタで生まれる
- 1981ブラウン大学を卒業、専攻は歴史
- 1984ノートルダム大学ロースクールを修了、企業法務の弁護士に
- 1993ボストンの地方銀行フリートに法務担当として入る
- 2004その銀行がバンク・オブ・アメリカに買われ、大手の幹部へ
- 2008カントリーワイド買収の後始末とメリルリンチ統合を担当
- 201050 歳で最高経営責任者に就任、初年度は赤字
- 2014司法省と $16.65B で和解、同年に会長を兼ねる
- 2018自動応答の相棒エリカを投入
- 2024母校ブラウン大学の理事会を率いる役にも就く
- 2025純利益 $30.5B と過去最高、後継候補 3 人を並べる
2010 年 1 月、50 歳で最高経営責任者(CEO)に就く。前任のケネス・ルイス氏が住宅ローン問題の責任を問われて退いた直後だった。
引き受けたのは、前任者が 2008 年に買った 2 社の後始末である。住宅ローン最大手のカントリーワイドと、証券大手のメリルリンチ。どちらも危機の震源に近かった。
朝起きて 2008 年のカントリーワイド買収を前向きに考えられる日は、正直そう多くない
就任 1 年目の決算は $2.2B の赤字だった。買った事業の価値を思い切って切り下げ、損を先に確定させたためである。
片づけて、削って、それから配る
モイニハン氏の 16 年は、順番の話として読むと分かりやすい。彼はこの 4 段を、飛ばさずに踏んだ。
和解の額は銀行の歴史でも異例だった。2014 年 8 月、司法省に $16.65B を払うことで決着する。米政府が 1 社から取った民事の和解では過去最大とされた。
問われたのは、危機の前に売った住宅ローン関連の証券である。中身の質が落ちていたことを買い手に伝えていなかった、というのが政府側の主張だった。
支払いと並行して、経費に手を入れる。2011 年に始めた社内改革は年 $8B の削減を掲げ、およそ 3 万人分の職を減らす計画を立てた。
社内で「新しいバンク・オブ・アメリカ」と呼ばれたこの改革は、期限より早く 2014 年に目標へ届く。買収で膨らませるのではなく、費用を 1 件ずつ落とす仕事だった。
そして 2025 年、会社は $40B の自社株買い枠を決め、配当も引き上げた。稼いだお金を株主へ戻す段まで、ようやく来たことになる。
利益 $30.5B は、4つの事業から出ている
銀行のもうけ方は単純だ。預かったお金を貸したり運用したりして、払う利息より高い利息を受け取る。この差が本業の稼ぎになる。
2025 年のバンク・オブ・アメリカは、この差だけで $60B を得た。手数料などを足した収益は $113B、純利益は $30.5B。どちらも過去最高である。
最大の柱は、個人の口座やカードを扱う部門だ。全米に支店を持ち、集まる預金の量そのものが競争力になっている。
裏返せば弱点も同じ場所にある。金利が下がる局面では受け取る利息が細り、預金が多いほど影響も大きく出る。
勢いは2026年に入っても続く。4〜6月期の純利益は$9.1Bで前年同期比27%増、株式売買の収益は70%増えた。四半期ごとの増収は17期連続になる。
次の人へ、何を渡すのか
2025 年 9 月、会社は 3 人の幹部を横に並べた。個人・法人部門を率いるディーン・アサナシア氏と、市場部門のジム・デマーレ氏が共同社長になる。
財務責任者のアラステア・ボースウィック氏も権限を広げた。次の CEO はこの 3 人から出る、という読み方が市場では通っている。
ただし本人は、2020 年代の終わりまで続けると述べた。席を急いで渡す気配はない。
残っている宿題もはっきりしている。スマホの中だけで完結する新しい金融会社が若い世代を取り込み、支店の多さが強みでなくなる日が近づいている。
対抗策の一つが、2018 年に出した自動応答の相棒「エリカ」だ。利用者はおよそ 5,000 万人、やり取りは累計 30 億回を超えた。
それでも若い層をどこまで引き止められるかは、まだ答えが出ていない。
値上がりが急な時ほど、貸す基準を少しだけ締める。これは警告弾だ
8月には別の顔ものぞいた。AI関連に賭けて資産が急拡大した投資会社シチュエーショナル・アウェアネスが崩れかけ、バンク・オブ・アメリカも取引を仲介していた1社だった。証券取引委員会は月末、関係した銀行に召喚状を出している。
危機の後始末で頭角を現した人らしい、静かな警戒の言葉である。
在任の前半は危機の片づけに、後半は稼ぎを株主へ戻すことに使われた。次の CEO が受け取るのは、掃除の終わった銀行である。
だから評価の物差しも変わる。片づけの上手さではなく、ここからどれだけ伸ばせるかだけが問われる。モイニハン氏が残した最後の宿題は、実は後継者の側にある。
出典:
- Bank of America Corporation Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/70858/000007085826000157/bac-20251231.htm
- U.S. Department of Justice「Bank of America to Pay $16.65 Billion in Historic Justice Department Settlement」(2014-08-21) — https://www.justice.gov/archives/opa/pr/bank-america-pay-1665-billion-historic-justice-department-settlement-financial-fraud-leading
- Bank of America Newsroom「BofA's Virtual Assistant Erica Surpasses 3 Billion Client Interactions」(2025-08) — https://newsroom.bankofamerica.com/content/newsroom/press-releases/2025/08/a-decade-of-ai-innovation--bofa-s-virtual-assistant-erica-surpas.html
- Bank of America「Announces Senior Leadership Changes」(2025-09-12) — https://www.prnewswire.com/news-releases/bank-of-america-announces-senior-leadership-changes-302555469.html
- Brown University「Brian Moynihan to lead Brown Corporation as the University's 22nd chancellor」— https://www.brown.edu/news/2024-02-13/chancellor
- Bank of America Reports Second Quarter 2026 Financial Results — https://newsroom.bankofamerica.com/content/newsroom/press-releases/2026/07/bank-of-america-reports-second-quarter-2026-financial-results.html
- Situational Awareness hedge fund meltdown was a warning shot for leveraged markets, BofA CEO says, CNBC(2026年8月5日) — https://www.cnbc.com/2026/08/05/bofa-brian-moynihan-situational-awareness-meltdown-was-a-warning-shot.html
- SEC reportedly subpoenas Wall Street banks over AI hedge fund Situational Awareness's near collapse, CNBC(2026年8月25日) — https://www.cnbc.com/2026/08/25/sec-situational-awareness-hedge-fund-subpoenas.html




