この記事の流れ(全5章)
2017年8月、ウーバーの取締役会が差し出した椅子に、座りたがる人はいなかった。社内告発、当局の調査、止まらない赤字。ダラ・ホスロシャヒは、旅行予約大手の安定した職を捨ててそこに座った。
引き受けたのは、燃えている会社だった
2017年のウーバーは、事業より先に評判が壊れていた。社内のハラスメント告発が表に出て、幹部が次々に辞め、当局の調査も走っていた。
創業者トラビス・カラニックは取締役会に追われた。後任探しは難航し、名の通った経営者はどこも首を縦に振らなかった。
引き受けたのは、旅行予約のエクスペディアを12年率いた48歳だった。創業神話も強い個性も持たない、いわゆる雇われ経営者である。
彼が最初にやったのは、新しい商売を始めることではない。謝ることだった。
就任の翌月、ロンドンの交通当局が営業免許を更新しないと決めた。彼は公開書簡で「やり方が間違っていた」と認め、世界中の社員を代表して詫びた。
同じ年の11月には、会社の価値観そのものを書き換えている。「正しいことをする。以上」を含む八つの行動規範を掲げ、前任時代の勢い任せの文化を捨てた。
順番が大事だった。文化を直す前に稼ぎを追えば、また同じ事故を起こしていたはずだ。
テヘランの少年と、6年会えなかった父
1969年、イランのテヘランに生まれる。一族は製薬や流通を手がける事業家で、革命前のテヘランでは裕福な部類だった。
1978年、革命前夜の混乱を避けて一家は米国へ渡る。持ち出せた財産はわずかで、暮らしは一からの立て直しになった。
1982年、父が祖父の世話のためイランへ戻る。そこで出国を禁じられ、家族と再会できたのは6年後だった。
13歳から19歳まで、父のいない家で育っている。速さより持続を選ぶ彼の性格の原点として、この時期はよく引き合いに出される。
- 1969イラン・テヘランで生まれる
- 1978革命前夜の混乱で一家が米国へ渡る
- 1982父がイランで出国を禁じられる13歳。再会は6年後
- 1991ブラウン大学で電気工学。投資銀行アレン・アンド・カンパニーへ
- 1998メディア投資会社のIACへ移る
- 200536歳でエクスペディアの最高経営責任者に
- 2017ウーバーの最高経営責任者に就任、翌月ロンドンで免許を失う
- 2019上場。売り出し価格は1株 $45、会社の値段は約 $82B
- 2020配達のポストメイツを買収、自動運転部門はオーロラへ売却
- 2022社内メールで費用の締め直しを宣言
- 2023通期で初めて本業が黒字になる
- 2025売上 $52.0B、本業のもうけ $5.6B、月に使う人は2.02億人
ブラウン大学で電気工学を修め、1991年に投資銀行のアレン・アンド・カンパニーへ。ここで会社の値づけと交渉を覚えた。
1998年、メディアとネット事業を束ねる投資会社IACへ移る。そして2005年、36歳でエクスペディアの最高経営責任者になった。
12年かけて売上を約 $2B から $10B 超へ伸ばし、世界最大級の旅行予約会社に育てている。ウーバーが彼を呼んだのは、この実績があったからだ。
三つの商売と、引き際の早さ
いまのウーバーは三つの商売でできている。人を運ぶ「移動」、食事や日用品を運ぶ「配達」、企業の荷物を運ぶ「貨物」だ。
配達は、外出が消えた2020年に会社を支えた事業である。ポストメイツを買って米国での持ち場を広げ、いまでは売上の3分の1を占める。
もうひとつの特徴が、引き際の早さだ。前任者は全市場で1位を狙ったが、彼は勝てない市場を手放した。
東南アジアの事業はグラブへ渡し、代わりに株を受け取っている。自分で運転手を集めるより、勝っている相手の一部を持つほうが得だという判断だった。
2022年5月の社内メールでは、費用の締め直しをはっきり書いた。採用を特権として扱い、宣伝費を削り、手元に残る現金を最優先の物差しに変えた。
費用については、どこまでも容赦しない
翌年、ウーバーは通期で初めて本業の黒字を出す。2019年に $8.6B あった本業の赤字は、2025年には $5.6B の黒字に変わった。
運転手がいなくなる日に、何を握るか
この会社の最大の弱点は、運転手あっての商売という点にある。自動で走る車が広まれば、最大の費用が消えると同時に、最大の強みも消える。
ホスロシャヒの答えは、自分で作るのをやめることだった。2020年に自社の自動運転部門をオーロラへ売り、開発から手を引いている。
代わりに選んだのは、車を作る側と組む道だ。無人車は8月時点で7都市を走り、年内に15都市へ増やす計画だという。パートナーの規模拡大には、今後数年で$10Bを投じるとも表明した。
握るのは車ではなく、客が最初に開く窓口だという考えである。誰の車であっても、ウーバーのアプリで呼ばれるかぎり手数料は入る。
ただし、この読みはいま試されている。先行するウェイモは2026年にフェニックスでの提携を終え、自社アプリでの提供へ軸足を移し始めた。
窓口を握る戦略は、相手が窓口を必要としているあいだしか効かない。ここが今後の最大の分岐点になる。
静かな9年が残したもの
彼は自分でもハンドルを握っている。サンフランシスコで運転手と配達員を務める社内の取り組みに、何度も参加した。
いちばん苦労したのは届け先探しだった。集合住宅で置き場所が分からず、広場でやっている試合に料理を運んだこともある。
そこで出した結論は、運転手にも同じ熱を持ってもらう必要がある、というものだ。彼は登録の手続きを作り直した。
ホスロシャヒの9年は、叫ばずに壊れた会社を直した9年だった。謝り、引き、削り、残った商売を太らせる。その繰り返しだけで黒字にした。
だからウーバーを見るときは、売上の伸びより先に運ぶ回数と本業のもうけの厚みを追うとよい。自動運転の提携が増え続けているかも同じくらい効く。
彼が最後に残すのは、運転手がいない時代でも人が最初に開くアプリかどうかだ。答えが出るのは、おそらく次の5年のうちになる。
出典:
- Uber Technologies, Inc.「Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2025」 — https://investor.uber.com/news-events/news/press-release-details/2026/Uber-Announces-Results-for-Fourth-Quarter-and-Full-Year-2025/default.aspx
- Uber Technologies, Inc. Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1543151/000154315126000015/uber-20251231.htm
- Uber Newsroom「Uber's new cultural norms」(2017年11月) — https://www.uber.com/en-US/newsroom/ubers-new-cultural-norms/
- Uber Technologies, Inc.「Uber to Acquire Postmates」(2020年7月) — https://investor.uber.com/news-events/news/press-release-details/2020/Uber-to-Acquire-Postmates/default.aspx
- CNBC「Uber and Waymo to end exclusivity arrangement in Atlanta and Austin」(2026年7月) — https://www.cnbc.com/2026/07/24/uber-and-waymo-to-end-exclusivity-arrangement-in-atlanta-and-austin.html
- Fortune「Uber CEO Dara Khosrowshahi moonlit as a driver」(2023年8月) — https://fortune.com/2023/08/22/uber-ceo-dara-khosrowshahi-moonlit-as-driver-san-francisco-nightmare-situation-uber-eats/
- Uber Technologies, Inc.「Uber Announces Results for Second Quarter 2026」(2026年8月5日) — https://investor.uber.com/news-events/news/press-release-details/2026/Uber-Announces-Results-for-Second-Quarter-2026/default.aspx





