この記事の流れ(全5章)
2022 年、彼は二つの巨大メディアを一つにした。2026 年、その会社は丸ごと売られることが決まった。合併も、分割も、売却も、決めたのは同じ人物である。
二つの独立した会社として動くほうが、それぞれのブランドは戦いやすい
デビッド・ザスラフは、作品を作る人ではない。会社の形を組み替えて、そこに値段をつける人だ。
だからワーナー・ブラザース・ディスカバリーの株を見るとき、効いてくる数字は視聴率でも興行成績でもない。1 株がいくらで買い取られるか、その 1 点である。
弁護士から、ケーブルテレビの目利きへ
1960 年、ニューヨーク市ブルックリンの生まれ。ボストン大学の法科大学院を出て、1985 年に企業法務の弁護士として働き始めた。
1989 年、米放送局の NBC に移る。法務から事業開発へ回り、経済ニュース専門局の CNBC など、新しいチャンネルの立ち上げに関わった。
2007 年、ディスカバリーの最高経営責任者になる。台本のない番組を安く大量に流す、ケーブルテレビの会社である。
ここで彼は買収を重ねた。2018 年には料理と住まいの専門局を持つスクリップス・ネットワークスを $14.6B で買い、番組の在庫を一気に厚くする。
この 15 年で身についたのは、番組を当てる勘ではない。会社を買い、費用を絞り、チャンネルを束ねる手つきだった。
- 1960ニューヨーク市ブルックリンで生まれる
- 1985ボストン大学の法科大学院を修了、企業法務の弁護士に
- 1989米放送局 NBC へ移り、法務から事業開発へ
- 2007ディスカバリーの最高経営責任者に就任
- 2018スクリップス・ネットワークスを $14.6B で買収料理・住まいの専門局を獲得
- 2022ワーナーメディアと合併、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー発足$55B の借入つきで出発
- 2022CNN+ を 1 か月で停止、映画『バットガール』をお蔵入り
- 2023配信サービスを Max に統合2025 年に HBO Max の名前へ戻す
- 2025会社を二つに分けると発表
- 2025ネットフリックスと 1 株 $27.75 で合意11 月に複数社から提案が届いた
- 2026株主が 1 株 $31 での売却を承認
- 202612 州が差し止めを求めて提訴、取引は最長 2027 年 6 月まで凍結
- 2026.08裁判所が差し止めの審理を開始、カリフォルニア州とは和解交渉も並行
$55B の借入つきで始まった会社
2022 年 4 月、ディスカバリーはワーナーメディアと合併した。生まれたばかりの新会社は、$55B の借入を背負って出発する。
ザスラフが最初にやったのは、費用を削ることだった。
開始から 1 か月のニュース配信 CNN+ を止めた。$300M を投じた直後である。
ほぼ完成していた映画『バットガール』も、公開しないと決めた。製作費は約 $90M。作品を出さずに損金として処理し、税を減らす道を選んでいる。
作り手の反発は激しかった。2023 年の脚本家と俳優のストライキでは、彼が業界の敵として名指しされた。
それでも数字は動いた。削減の目標は $3B から $5B 超へ引き上げられ、借入は着実に減っていった。
割ると決めた 5 か月後、買い手が来た
2025 年 6 月、ザスラフは会社を二つに分けると発表する。
片方は映画と配信の会社。もう片方は CNN や TNT など、加入者が減り続けるケーブルテレビ局の集まりだ。
伸びる事業と縮む事業を切り離し、別々に評価させる。3 年前に自分でくっつけたものを、自分で外す判断である。
取締役会はこの計画を進める役目として、一度きりの株式報酬を彼に渡した。金額は約 $110M。2025 年の報酬総額は $165M に膨らんでいる。
分割は 2026 年 4 月に終わる予定だった。ところがその前に、会社を丸ごと欲しいという相手が現れる。
2025 年 11 月、パラマウント・スカイダンスやネットフリックスから買収の提案が届いた。
12 月、会社はネットフリックスと 1 株 $27.75 で合意する。だが現金だけを積むパラマウント側が、提示額を上げ続けた。
2026 年 2 月、取締役会は乗り換えを決めた。ネットフリックスへの違約金 $2.8B は、買い手のパラマウント側が支払っている。
4 月 23 日、株主は 1 株 $31 での売却を承認した。借入を含めた取引の規模は約 $111B になる。
承認されたのに、まだ終わっていない
同じ日、株主はもう一つの議案に反対票を投じた。ザスラフに支払われる退職一時金 $887M である。
この投票に拘束力はない。助言会社は「市場の慣行から外れている」と評したが、支払いを止める力は株主の側にない。
7 月には、カリフォルニア州など 12 州が、この買収は競争を損なうとして差し止めを求めて提訴した。連邦判事は 7 月 20 日に一時的な取引停止を命じ、8 月には差し止めの是非を問う審理が開かれている。
買い手側は、裁判が決着するか 2027 年 6 月 1 日を迎えるまで取引を閉じないと約束している。本裁判は 2027 年 3 月の予定だが、8 月下旬時点でパラマウント側とカリフォルニア州司法長官の間で和解の話し合いも進んでいる。
その間もザスラフは自分の持ち株を売り続けている。8 月半ばだけで 2 回、合計 $27M 超を売却した。合意成立後の売却総額は $200M を超える。
いま何を見ればいいか
市場はこの宙づりを値段で示している。買い取り価格は $31 なのに、株価は $26〜28 の間で止まったままだ。ネットフリックスが提示していた水準に近い。
差の分だけ、投資家は本当に閉じるのかを疑っている。決算の良し悪しより、裁判と和解交渉の行方のほうが株価を動かす局面にいる。
ザスラフはもう、新しい番組で評価される立場にいない。残った仕事は、自分が決めた売却を成立させることだけだ。自分の株を先に現金化しながら、その仕事を続けている。
彼の通信簿は、来年の春に法廷で付く。それより早く和解で決着することもありうる。
出典:
- Warner Bros. Discovery「Warner Bros. Discovery to Separate into Two Leading Media Companies」(2025-06-09) — https://www.wbd.com/news/warner-bros-discovery-separate-two-leading-media-companies
- Warner Bros. Discovery「Sets Shareholder Meeting Date of April 23, 2026」 — https://www.wbd.com/news/warner-bros-discovery-sets-shareholder-meeting-date-april-23-2026-approve-transaction
- Warner Bros. Discovery, Inc. Form 10-K (FY2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1437107/000143710726000020/wbd-20251231.htm
- CNBC「Paramount, WBD hit with lawsuit from 12 states」(2026-07-13) — https://www.cnbc.com/2026/07/13/paramount-wbd-merger-lawsuit.html
- Variety「Judge Pauses Paramount-Warner Bros. Merger」(2026-07-20) — https://variety.com/2026/film/news/judge-paramount-warner-bros-merger-tro-1236815048/
- Variety「Paramount and California A.G. Expected to Discuss Settlement on Monday」(2026-08) — https://variety.com/2026/film/news/paramount-merger-warner-settlement-talks-bonta-california-1236840532/
- Variety「David Zaslav Sells $59 Million More in Warner Bros. Discovery Stock」 — https://variety.com/2026/film/news/david-zaslav-sells-59-million-warner-bros-discovery-stock-1236810050/




