2022 年、AT&T と Discovery が WarnerMedia を $43B で合併させ、巨大複合メディア企業が誕生した。Warner Bros. Discovery のかじ取りを任されたのが、デビッド・ザスラフ。だが彼が選んだのは「統合」ではなく 「分解」だった。
全部を持っていれば何かが赤字になる。我々は「持つ会社」と「持たない会社」に分ける
合併から 3 年、ザスラフは HBO Max(現 Max)の値上げ、未公開映画の損金処理、CNN 再編、有名タレントの契約解除を矢継ぎ早に実行。そして 2024 年に「会社を 2 つに分ける」と発表。彼の経営は 「合併→分割」という稀有な軌跡を辿っている。
ロースクールから NBC、Discovery、Warner へ
1960 年、ニューヨーク・ブルックリンのユダヤ系家庭で生まれる。父は技師、母は秘書。ボストン大学で経済学、ボストン大学ロースクールで法学位を取得。1985 年に 法律事務所 LeBoeuf, Lamb, Greene & MacRae で企業法務担当の弁護士になる。
1989 年、NBC(後の NBCUniversal)の 法務部門 → ビジネス開発部門 へ転身。ジャック・ウェルチ・GE CEO 時代に NBC の経営に深く関わり、CNBC(経済ニュース)、MSNBC(一般ニュース)、Bravo(エンタメ)の立ち上げに法務・経営両面で関与。20 年近く NBC で過ごし、「ケーブル TV の経営に最も詳しい弁護士」と業界で知られた。
2007 年、Discovery Communications の CEO に。Discovery は Discovery Channel、TLC、Animal Planet など実体系(リアリティ)チャンネルを運営する会社で、Netflix のストリーミング革命の中で「伝統的ケーブル TV の代表」として苦境に立っていた。ザスラフは 15 年かけて、Discovery を「スポーツ・実体系のグローバルプレイヤー」に変えた。
そして 2022 年、WarnerMedia(AT&T 傘下の HBO・Warner Bros・CNN・TBS など)との合併を仕掛け、Warner Bros. Discovery(WBD)の CEO に就任。メディア業界で 35 年の経験を背負っての登板だった。
「コスト削減と分解」のシナジー
ザスラフが WBD で最初に着手したのは 大規模コスト削減だ。合併時の借入 $55B を返済するため、コンテンツ予算、本社経費、人員、不採算事業をすべて見直し。具体的には:
- $3B 超のコスト削減プログラム(2022〜2024 年)
- CNN+(独自配信)を $300M 投資後、1 ヶ月で停止
- Batgirl($90M 製作費の DC 映画)を未公開のままお蔵入り(税務上の損金処理)
- HBO Max + Discovery+ を統合、新ブランド Max として再ローンチ
- CNN 編集体制の刷新、有名ホスト解雇
この一連の判断は 「冷徹」と評され、ハリウッドの一部では「コンテンツ・キラー」と呼ばれた。だが、借入返済は予定通り進み、$10B 以上を返済。財務状況は徐々に改善。
そして 2024 年の決断。「会社を 2 つに分ける」。
- Streaming & Studios: Max、Warner Bros. Studios、DC、HBO、Discovery+ ストリーミング
- Global Networks: CNN、TNT、TBS、Discovery Channel、Animal Planet、HGTV など伝統的ケーブル TV
これは 「成長部門と衰退部門を分ける」戦略で、Comcast の Versant 分離、Disney の ESPN 独立検討と並ぶ業界トレンドだ。ザスラフは 両会社の経営トップに残るが、市場で別々に評価される形を選んだ。
「業界の嫌われ者」と呼ばれて
ザスラフのスタイルは 「結果主義、感情を入れない」。決算説明会で「Batgirl の予算 $90M は損金処理で取り戻した」と平然と語る姿勢が、ハリウッドの監督・脚本家・俳優から強い反発を呼んだ。2023 年の脚本家・俳優ストライキでは、ザスラフが象徴的な「敵」として名指しされた。
メディア業界は強い 3 社しか生き残らない。我々はその一つになる
報酬問題も話題になった。ザスラフの 2021 年報酬は $246M(当時の S&P 500 で最高クラス)。WBD の株価が下落する中での高額報酬は、株主・社員両方からの反発を呼んだ。
社内文化は 「厳しいが、透明性は確保」と評される。経営判断の理由を社員に明確に伝え、決算説明会では財務指標を細かく説明する。「ザスラフは何をやるか分かる、嫌でも分かる」というのが共通評価だ。
分割後の WBD と、メディア業界の運命
WBD の 2 社分割は、業界全体のメディア構造変化を象徴する判断だ。ケーブル TV 加入者の長期減少、ストリーミングの飽和、スポーツ放映権の高騰。「全部を持つメディア企業」のモデルが、もはや成立しないことを認める動きだ。
リスクは多い:
1. 分割後のケーブル TV 部門が「縮小事業」として市場評価が低い。CNN、TNT、TBS、Discovery Channel などが束ねられるが、収益・加入者は毎年減少。「ゾンビ会社」と呼ばれる懸念がある。
2. Max(ストリーミング)の競争力。Netflix(3 億人)、Disney+ + Hulu(1.5 億人)、Amazon Prime Video(2 億人)に対し、Max は 1 億人弱。「3 番手以下」という位置が定着している。
3. M&A の可能性。分割後の Streaming & Studios 部門は Comcast、Paramount、Apple、Amazon などへの売却対象になり得る。ザスラフ自身が「Warner を売却で完結する」シナリオを否定しないのが特徴的だ。
読み終わりに
ザスラフの面白さは、「合併で巨大化させた会社を、すぐに分解する」という稀有な経営判断にある。Bob Iger(Disney)が「集約」を選んだ一方、ザスラフは「分離」を選んだ。同じメディア業界で正反対の判断が並行する 2020 年代は、業界の構造変化期そのものだ。
Warner Bros. Discovery の株を見るときは、四半期売上より 分割後の 2 社それぞれの評価と M&A 候補としての売却シナリオを読むと、見え方が変わる。ザスラフが残す最後の作品が 「Streaming & Studios 部門の独立成長」なのか、それとも 「分割後に売却される運命」なのか — そこに次の 3 年が見える。





