この記事の流れ(全5章)
2026 年 1 月 31 日、ダグ・マクミロンはウォルマートの社長を退いた。42 年前、同じ会社の倉庫で荷を降ろしていた 17 歳の少年である。
退任したその日は、ウォルマートが一年の決算を締める日でもあった。12 年の在任が、ちょうど 12 回の決算で区切られたことになる。
最後の一年の売上は $713B。就任する前の年の $476B から、1.5 倍になっていた。
退任の 2 日後に、答え合わせが来た
2026 年 2 月 3 日、ウォルマートの時価総額が $1T を超えた。小売業でこの水準に届いた会社は、世界でこれが初めてだった。
そのときマクミロンはもう社長ではない。後任のジョン・ファーナーが就任して、まだ 2 日目である。
つまり市場が値段をつけていたのは、前の 12 年で作られたものだった。
では何が作られたのか。数字はひとつ見れば足りる。ネットで売った金額である。
ネット通販は $10B から $150B へ増えた。売上に占める割合も、2% 台から 2 割超まで上がっている。
アマゾンに勝ったわけではない。ただ、勝負が終わる前に土俵へ上がった。
17 歳の倉庫番が、42 年かけて出口まで歩いた
1966 年、テネシー州メンフィス生まれ。家族はのちにアーカンソー州へ移り、地方の街で育った。
1984 年の夏、17 歳でウォルマートの物流倉庫に入る。仕事は店に送る商品を棚から拾い、取引先のトラックから荷を降ろすことだった。
アーカンソー大学で会計を学び、いったん会社を離れる。戻ったのは 1990 年、タルサの店舗に副店長としてだった。
働きながらタルサ大学で経営学修士(MBA)を取り、修了して数週間後に釣り具の仕入れ担当になる。
ここから先が長い。会員制倉庫店サムズ・クラブの社長、海外事業の社長を経て、全社の社長になったのが 2014 年である。
- 1966テネシー州メンフィスで生まれる
- 1984ウォルマートの物流倉庫で夏のアルバイト17歳。棚から商品を拾い、荷を降ろす仕事
- 1990アーカンソー大学を出て、タルサの店舗に副店長として入社
- 1991タルサ大学で経営学修士。釣り具の仕入れ担当へ
- 2005会員制倉庫店サムズ・クラブの社長に
- 2009海外事業の社長に。メキシコ・英国・中国などを見る
- 2014全社の社長に就任(47歳)外から招いたのではなく、社内で育った人間だった
- 2016ネット通販のジェット・ドットコムを $3.3B で買収
- 2018インドのフリップカートを $16B で買収し、77% を握る
- 2020会費制のウォルマート・プラスを開始。経営者団体の会長も務める
- 2024テレビメーカーのビジオを $2.3B で買収、広告事業へ
- 20261月31日に退任。2日後、時価総額が $1T を超える
4,600 の店を、そのまま配送センターに読み替えた
アマゾンと戦うとき、ウォルマートには不利な資産があった。全米に散らばる巨大な店舗である。
家賃も人件費もかかる。ネット通販の会社から見れば、ただの重荷にしか見えない。
マクミロンはこれを裏返した。米国人の約 9 割は、ウォルマートの店から 10 マイル(約 16 キロ)以内に住んでいる。
新しく倉庫を建てなくても、配送の拠点はもう全米にある。そう読み替えた。
同じ棚が、レジに並ぶ客とアプリの客の両方に商品を出す。これがこの 12 年の中心にある発想だった。
人が率い、技術が支える、店とネットが一体の小売業へ
マクミロンは自分の 12 年をこの一言でまとめている。原語は people-led, tech-powered omnichannel retailer である。
買収もこの線の上にあった。ジェット・ドットコムには $3.3B を払ったが、サイト自体は 4 年後に閉じている。
残したのは人と技術だった。創業者のマーク・ロアが、そのまま米国のネット事業を率いることになる。
売上は 47% 増えたのに、もうけは 10% しか増えなかった
マクミロンの 12 年には、あまり語られない数字がある。本業のもうけ、つまり営業利益である。
増えた売上はどこへ消えたのか。値段と、賃金と、配送の設備に使われた。
値下げは客を呼ぶが、その分だけ利幅を削る。会社の開示では、米国の店舗で働く人の平均時給は $18 台まで上がった。
設備投資は年 $12B から $27B へ倍増している。どれも、その年の利益を減らす使い方だった。
利益がふたたび伸び始めたのは、まったく別の商売が育ってからである。広告だった。
店とアプリの目立つ場所を、商品を売りたいメーカーに買ってもらう。仕入れがない分、利幅が厚い。
最後の一年、この広告事業は 46% 伸びて $6.4B になった。会費収入も 15% 増えている。
安く売って薄く稼ぐ会社の上に、原価のかからない収入が乗り始めた。「もうけの出どころが変わった」というのが、12 年の正味の成果である。
次の人に渡したもの
後を継いだジョン・ファーナーも、1993 年に時給で働き始めた社員である。売り場を通って社長になった経歴まで、前任者とよく似ている。
マクミロンは 2026 年 6 月の株主総会まで取締役に残り、その後も 1 年は助言役として関わる。
ウォルマートの社長を務められたことは、大きな名誉だった
渡した宿題は軽くない。ひとつは関税で、輸入品の仕入れ値が動くたびに利幅が揺れる。
もうひとつは期待値そのものだ。2026 年 5 月の決算は売上も利益も予想を上回ったが、株価は下がった。会社が通期の見通しを引き上げなかったからである。
8 月 20 日の決算でも同じことが起きた。今度は見通しを引き上げたのに、株価は 1 日で 9% 近く下げている。利幅の伸びの多くが関税の還付金頼みだと市場が見抜いたためだ。
12 年で積み上げた評価は、次の 12 年への前払いでもある。ファーナーはその前払いを、まだ自分の実力で返せていない。
これからウォルマートを見る人は、売上の伸びより広告と会費の伸びを追うとよい。マクミロンが最後に植えた木は、そこにある。
17 歳で倉庫に入り、59 歳で社長を降りた。その 2 日後に会社が $1T へ届いたのは、彼の 12 年に遅れて届いた採点表だった。
出典:
- Walmart Inc.「Walmart Releases Q4 FY26 Earnings」(2026-02-19) — https://corporate.walmart.com/news/2026/02/19/walmart-releases-q4-fy26-earnings
- Walmart Inc.「Walmart Announces John Furner as President and Chief Executive Officer」(2025-11-14) — https://corporate.walmart.com/news/2025/11/14/walmart-announces-john-furner-as-president-and-chief-executive-o0
- Walmart Leadership: Doug McMillon — https://corporate.walmart.com/about/leadership/doug-mcmillon
- Walmart Inc. Form 10-K (fiscal 2026), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0000104169&type=10-K
- Walmart Inc.「Walmart Releases Q2 FY27 Earnings」(2026-08-20) — https://corporate.walmart.com/news/2026/08/20/walmart-releases-q2-fy27-earnings





