この記事の流れ(全5章)
2019 年 4 月、60 歳の男がスノーフレークの最高経営責任者に招かれた。創業者ではない。頼まれて入る、3 社目の会社だった。
フランク・スルートマンの仕事は、毎回まったく同じ形をしている。製品が出来上がった会社に途中から入り、売る力を鍛え、株式市場に出す。
そして役目が終わると去る。スノーフレークでも 2024 年 2 月、自分から最高経営責任者の座を降りた。
3 社を預かり、3 社とも出口まで運んだ
1958 年、オランダ生まれ。ロッテルダムのエラスムス大学で経済学を修め、1982 年に米国へ渡った。
最初の主役は 2003 年、データ・ドメインという記憶装置の会社だった。同じ中身のデータを二重に保存しない、という地味な技術を売っていた。
2007 年に上場させる。株を証券取引所に並べ、誰でも売り買いできる状態にすることだ。
2009 年、この会社を大手 2 社が奪い合った。ネットアップが先に買収で合意したところへ、記憶装置最大手のイーエムシーが割り込む。
イーエムシーは、のちにデルが買い取った会社である。競り合いは 6 週間続いた。
1 株 $30 から $33.50 まで値を上げ、全額現金という条件で勝つ。総額はおよそ $2.1B。
データ・ドメインはネットアップとの契約を解き、違約金 $57M を払っている。
2011 年、次はサービスナウだった。社内のパソコンやシステムの困りごとを受け付けるソフトの会社で、翌年に上場した。
2019 年、60 歳でスノーフレークへ。社内に散らばったデータを 1 か所に集めて分析する仕組みを、月額で貸す会社である。
16 か月後の 2020 年 9 月に上場。2,800 万株を 1 株 $120 で売り、$3.4B を集めた。ソフト会社の新規上場としては当時の最大である。
初値は $245、終値は約 $254。セールスフォースとバークシャー・ハサウェイも買っていた。両社は同じ条件で計 $500M を引き受けている。
新しく上場する株を、ウォーレン・バフェットの会社が買うのは珍しい。
- 1958オランダで生まれる
- 1982エラスムス大学で経済学を修め、米国へ渡る
- 2003データ・ドメインの最高経営責任者に就任
- 2007データ・ドメインが上場
- 2009イーエムシーが約 $2.1B で買収、競り合いの末に
- 2011サービスナウの最高経営責任者に就任
- 2012サービスナウが上場
- 2017サービスナウを退任
- 2019スノーフレークの最高経営責任者に (60 歳)
- 2020スノーフレーク上場、$3.4B を調達ソフト会社では当時最大の規模
- 2024最高経営責任者を退任、ラマスワミへ交代
- 2026取締役会長として在任中
売上は 10 倍。それでも帳簿はずっと赤字だった
スノーフレークの決算を開くと、毎年きれいに赤字が並んでいる。スルートマンが去った年度の最終損益も $836M の赤字だった。
ところが同じ年度、本業で入ってきた現金は $848M ある。設備に使った分を引いても $813M が手元に残った。
この差の大きな部分は、給与の一部を自社株で払う仕組みから来る。会社は現金を出していないのに、費用としては計上するからだ。
だから現金が増えていても帳簿は赤字になる。赤字を気にしなくてよい、という意味ではない。
株で払えば株の数は増える。すでに持っている株主の取り分は、その分だけ薄まっていく。
スルートマンはこの形を極端まで振った。売る人を厚く雇い、赤字を許し、伸び率そのものを買ってもらう。
厳しさは、人の好き嫌いをはっきり分ける
優先すべきことがたくさんあるなら、優先すべきことは一つも無い
2022 年の著書『Amp It Up』は、題名がそのまま彼のやり方を指している。強度を上げろ、という意味だ。
彼は最高経営責任者の仕事を「とんでもなく対決的で、人間の本性に反している」と言い切る。それでも対決は避けず、自分から取りに行けというのが彼の主張だ。
合わない人は辞めていく。それでいい、というのが彼の考えだ。合う人が集まり、合わない人が抜けるだけだと語っている。
だから同じ会社の同じ時期を指して、最高の上司だったと言う人と、二度と御免だと言う人が並ぶ。
退任を告げたとき、社内は動揺した。彼はそれを一言で片づけている。「これは個人崇拝ではない」と。
去ったあとに、答え合わせが始まる
後任はスリダー・ラマスワミ。グーグルで広告事業を率いた人物で、2023 年に自分の会社が買われてスノーフレークに来た。
社内で人工知能を担当していた技術畑である。売る力の人から、作る力の人への交代だった。
スルートマンは会社を離れてはいない。2026 年 5 月に米証券取引委員会へ出された委任状によれば、2019 年 12 月から取締役会長を続けている。
交代を発表した日、株価は大きく下げた。同時に示した業績見通しも弱かった。
その後の 2 年で会社は数字を取り戻す。2026 年 1 月期の売上は $4.68B に伸びた。
2026 年 7 月、取締役会はラマスワミに新しい報酬案を示した。7 年で時価総額をいまのおよそ 2 倍、$184B まで押し上げれば、最大 $448M を受け取る仕組みだ。
2026 年 8 月 25 日の株価は $318 で、52 週の安値 $121 から大きく戻っている。
この会社で追うのは 2 つでいい
スルートマンの通信簿は、彼がいなくなってから付く。仕組みを残したのなら伸びは続くし、圧力だけだったのなら止まる。
いまのところ、伸びは続いている。
これからスノーフレークの株を見るなら、追うものは 2 つでよい。売上の伸び率と、自社株で払った分だけ増える株数だ。
前者は彼が残した勢いで、後者は彼が先送りにした請求書である。
出典:
- Snowflake Inc., SEC EDGAR 提出書類一覧 (Form 10-K / 年次の売上・損益・現金) — https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001640147&type=10-K
- Snowflake Inc. Form DEF 14A (2026 年 5 月 18 日提出、在任期間と取締役会長の記載) — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1640147/000164014726000019/snow-20260518.htm
- Snowflake「Snowflake Announces Pricing of Initial Public Offering」 — https://www.snowflake.com/en/news/press-releases/snowflake-announces-pricing-of-initial-public-offering/
- Snowflake「Sridhar Ramaswamy Named Chief Executive Officer of Snowflake」 — https://www.snowflake.com/en/news/press-releases/sridhar-ramaswamy-named-chief-executive-officer-of-snowflake/
- Data Domain, Inc. Form 8-K (2009 年、イーエムシーによる買収) — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001391984/000095013409011246/f52588exv99w2.htm
- Reuters「Snowflake unveils $448 million pay plan for CEO tied to ambitious stock targets」(2026年7月) — https://www.tradingview.com/news/reuters.com,2026:newsml_L4N43I0Z7:0-snowflake-unveils-448-million-pay-plan-for-ceo-tied-to-ambitious-stock-targets/




