この記事の流れ(全5章)
2021年3月、ジェーン・フレイザーは米大手銀行で初の女性トップになった。ただ、彼女が受け取ったのは「大きいのに儲からない」銀行だった。
シティグループは180を超える国と地域で商売をしている。それでも、株主のお金をどれだけ利益に変えられるかという点では、同業に長く見劣りしていた。
世界に広げすぎて、自分たちでもどこが稼いでいるのか掴めない。フレイザーはその状態をほどくために呼ばれた。
「競い合うだけの規模がない」と認めた就任
就任は2021年3月1日。その前の秋、シティは米国の規制当局から業務改善命令を受けたばかりだった。
命令の理由は、不正でも巨額の損失でもない。社内のデータが揃っていない、という指摘である。
顧客や取引の記録が部署ごとにばらばらで、経営陣が全社の姿を正しく見られない。銀行としては重い欠陥だ。
どれも良い事業だ。ただ、競い合うのに必要な規模が我々にはない
就任の翌月、フレイザーは個人向け銀行を13ヶ国でたたむと発表した。
オーストラリア、中国、インド、韓国、台湾、ポーランドなど、看板だけは立派に並んでいた市場である。
稼げていない場所を抱えたまま全社を直すことはできない。最初の一手は、足し算ではなく引き算だった。
スコットランドの小さな町から来た人
1967年、英国スコットランドのセントアンドルーズ生まれ。ケンブリッジ大学で経済学を修めた。
卒業後はゴールドマン・サックスのロンドン支店に入り、企業どうしの合併や買収を手伝う部署で働く。
その後ハーバード大学で経営学修士を取り、マッキンゼーに10年在籍してパートナーまで進んだ。
シティに移ったのは2004年。中南米の統括やメキシコ子会社の経営を経て、2019年に社長になった。
- 1967スコットランド・セントアンドルーズで生まれる
- 1988ケンブリッジ大学で経済学の学位、ゴールドマン・サックスへ
- 1994ハーバード大学で経営学修士、マッキンゼーへ10年在籍しパートナーに
- 2004シティグループ入社
- 2009富裕層向け銀行部門の責任者
- 2015中南米地域の責任者、メキシコのバナメックスを統括
- 2019社長に就任
- 2021最高経営責任者に就任、米大手銀行で初の女性トップ
- 2021個人向け銀行を13ヶ国でたたむと発表就任の翌月
- 2023組織を5つの事業に作り直す社内の呼び名は「ボラボラ計画」
- 20242026年までに2万人を減らすと公表
- 2025会長を兼任、バナメックス株25%を売却
- 2026四半期の売上が10年ぶりの高さに
事業を5つに束ね直した2023年
2023年9月、フレイザーは組織そのものを作り替えた。社内では「ボラボラ計画」と呼ばれた作業である。
地域ごとに積み上がっていた指揮系統をやめ、事業を5つに束ねた。決済、市場、法人向け、資産運用、米国の個人向けだ。
狙いは責任の在りかを見えるようにすること。5人の責任者が、それぞれの数字を自分の名前で背負う形にした。
人も減らした。2024年に「2026年までに2万人減らす」と公表している。
社員数は2023年末の約240,000人から、2026年6月末には219,000人まで下がった。
メキシコも手放しにかかった。現地の看板銀行バナメックスの株を、2025年から段階的に売っている。
2026年6月末までに49%を売る道筋がつき、残りは市場の状況を見ながら株式公開する構えだ。
数字がやっと追いついてきた四半期
2026年4〜6月期、売上は$24.8Bとなった。四半期としては10年ぶりの高さである。
純利益は$5.8Bで、前の年の同じ時期より45%多い。1株あたりの利益は$1.96から$3.15へ伸びた。
5つの事業のうち4つで売上が二桁伸びている。会社を小さくしながら、稼ぎは増えている状態だ。
浮いた資本は株主に返している。配当を12%増やし、$30Bの自社株買いを始めた。
自社株買いは株数そのものを減らすので、1株あたりの利益が上がる。株価が戻ってきた理由の一つだ。
まだ外れていない足かせ
宿題は残っている。最大のものは、2020年に受けた業務改善命令がいまも解けていないことだ。
2024年には、対応の遅れを理由に2つの当局から合わせて約$136Mの制裁金を科された。データ整備が期限に間に合わなかったためだ。
フレイザーは7月の決算説明で、作業の大半が社内の検査を通ったと述べた。ただ、解除を決めるのは当局の側である。
シティの再建は一直線には進まない
稼ぐ力の差も残ったままだ。同じ四半期のJPモルガンは23%、シティは13.0%で、開きは小さくない。
米国の個人カード部門では、提携先や商品への投資がかさみ、この四半期は費用の伸びが売上の伸びを上回った。
会社が置いた目標は2027〜2028年に11〜13%、その先で14〜15%。追い抜く計画ではなく、差を縮める計画である。
この人の通信簿は、どこに出るか
フレイザーの5年は、新しい事業を生んだ物語ではない。すでにあるものを減らし、残った部分の効率を上げた物語だ。
銀行の経営者としては地味に映る。ただ、広げすぎた会社を直す方法は、実のところこれ以外にあまりない。
2025年10月には会長も兼ねた。取締役会がこの路線を続けると判断した、という意味になる。
引き算だけの人ではない。2026年8月、ステーブルコインの規制法案(クラリティ法)への支持を表明し、デジタル資産を新しい商売の芽として扱い始めている。
シティグループの株を見るなら、四半期ごとの利益より次の2つを追うとよい。この人の仕事が見えやすくなる。
- 業務改善命令がいつ解けるか — 解ければ対応に充てていた費用が浮き、事業への投資に回る
- 稼ぐ力が11%を超えて居座るか — 会社が置いた次の目標の入り口がそこにある
この2つが動いたとき、フレイザーの引き算はようやく足し算に変わる。それまでは、まだ途中の会社である。
出典:
- Citigroup Inc.「Second Quarter 2026 Results」(2026年7月14日) — https://www.citigroup.com/rcs/citigpa/storage/public/Earnings/Q22026/2026prqtr2rslt.pdf
- Citi 2026年第2四半期 決算説明会の記録 — https://www.citigroup.com/rcs/citigpa/storage/public/2026psqtr2-transcript.pdf
- 米連邦準備制度理事会「Federal Reserve Board fines Citigroup $60.6 million」(2024年7月10日、通貨監督庁と合わせて約$135.6M) — https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/enforcement20240710a.htm
- Citi「Citi Announces Completion of 22.6% of Sale of Equity Stake in Banamex」 — https://www.citigroup.com/global/news/press-release/2026/citi-announces-completion-22-6-percent-sale-equity-stake-banamex
- JPMorgan Chase「Second-Quarter 2026 Results」 — https://www.jpmorganchase.com/content/dam/jpmc/jpmorgan-chase-and-co/investor-relations/documents/quarterly-earnings/2026/2nd-quarter/6cded9fd-a164-4e6c-8cff-377357cf105c.pdf
- HOKANEWS「Citigroup CEO Jane Fraser Backs CLARITY Act for Crypto」(2026年8月) — https://www.hokanews.com/2026/08/citigroup-ceo-jane-fraser-backs-clarity.html





