この記事の流れ(全6章)
1995年はウェブ、2004年は動画、そして2013年はお金。ジェレミー・アレールは30年で3回、「次にインターネットが飲み込むもの」に賭けた。3回とも当て、3社とも上場させている。
賭け方は毎回そっくりだ。表に立つ商品ではなく、その裏で動く配管をつくる。
サークルが出しているUSDCは、いつでも $1 と交換できる「デジタルのドル」である。
政治学の学生が、ウェブの道具屋になった
1971年、ミネソタ州ミネアポリス生まれ。子どもの自主性に任せるモンテッソーリ教育で育った。
大学はマカレスター大学に進む。専攻は計算機科学ではなく、政治学と哲学だった。1993年に卒業している。
プログラミングは独学だ。1995年、兄のJJと会社を立ち上げた。元手はJJの貯金 $18,000 である。
二人が作ったのは、コールドフュージョンという開発道具だった。ホームページとデータベースをつなぎ、注文や検索を動かせるようにするものだ。
まだウェブが読むだけの場所だった時代に、そこを動く場所へ変えた。会社は1999年に上場する。
2001年、同社はマクロメディアに売却された。アレールは30歳で、買い手の技術責任者に就いている。
- 1971ミネソタ州ミネアポリスで生まれる
- 1993マカレスター大学を卒業、専攻は政治学と哲学
- 1995兄JJと創業、開発道具コールドフュージョンを作る
- 19991社目が米ナスダックに上場
- 2001マクロメディアへ売却、30歳で技術責任者に
- 2004動画配信の裏方ブライトコーブを創業(2社目)
- 2012ブライトコーブが上場
- 2013サークルを創業(3社目)
- 2018コインベースと組み、USDCの発行を始める
- 2025ニューヨーク証券取引所に上場、公開価格は $31初日の終値は $83.23
- 2026米通貨監督庁から信託銀行の設立認可
3回とも、主役ではなく裏方を選んだ
2004年、2社目のブライトコーブを創業する。動画をネットで流したい放送局や企業に、その裏側の仕組みを貸す会社だ。
ユーチューブが生まれる1年前だった。動画が主役になる前に、動画を運ぶ管を用意していたことになる。
この会社も2012年に上場した。これで2社連続である。
お金は、インターネットのスピードで動くべきだ
3社目のサークルは2013年、ビットコインが最初の熱狂を迎えた年に始まった。
ただし狙いは値上がり益ではない。ドルそのものをネットの上で動かす、その管になることだった。
2018年、コインベースと組んでUSDCの発行を始める。3回目の賭けが、ここで形になった。
預かった $1 は、どこへ消えるのか
USDCの仕組みは驚くほど単純だ。利用者が $1 を渡すと、サークルは1USDCを発行する。
預かった $1 は短期の米国債などで持つ。だから、持ち主はいつでも $1 に戻せる。
会社の稼ぎは、この預かり金に付く利息である。4〜6月期の利息収入は $668M で、売上のおよそ95%を占めた。
問題はその先にある。入ってきた利息の多くは、会社の手元に残らない。
USDCを配ってくれる取引所や提携先へ払った額は $412M。売上 $701M のおよそ6割にあたる。
そこから人件費などを引くと、継続事業の純利益は $48M になる。前年の同じ時期は赤字だったので、改善ではある。
「使われるほど儲かる」のは本当だ。ただし儲けの半分以上は、最初から他人のものと決まっている。
量は2.5倍、稼ぎは7%しか増えない
4〜6月期にUSDCで動いたお金は $14.8T だった。前年同期のおよそ2.5倍である。
ところが売上は $701M で、伸びは7%にとどまった。使われた量と稼ぎが、まるでかみ合っていない。
原因は金利だ。預かり金に付く利率は、1年で0.66%分下がった。
つまり売上は、流通額と米国の金利の掛け算でほぼ決まる。片方が伸びても、もう片方が縮めば打ち消される。
投資する側から見ると、ここが最大の弱点になる。利下げが進む局面では、USDCが順調に増えても売上は止まりうる。
競争も楽ではない。流通残高では首位のテザーに水をあけられ、サークルは2位につけている。
免許を集める、という戦い方
暗号資産の世界には、規制とぶつかりながら進む経営者が多い。アレールは逆をやった。
10年かけて各国の免許と登録をそろえ、当局に監督される側へ自分から入っていったのである。
2025年7月、米国でステーブルコインを正面から扱う法律が成立した。アレールはホワイトハウスでの署名に駆けつけている。
2026年7月10日には、米通貨監督庁から信託銀行の設立認可が下りた。預かり金の保管を自前の銀行で担い、連邦の監督下に置ける体制になる。
日本にも足がかりができた。2026年6月、野村ホールディングスと覚書を結び、企業向けの外貨決済を2027年にも始めると報じられている。
4回目の賭けは、9月16日に始まる
サークルはいま、アークという独自のブロックチェーンを準備している。USDCそのものが手数料の支払いに使われる仕組みだ。
一般公開は2026年9月16日の予定である。アレールはこれを、USDCより大きな機会だと語っている。米証券保管振替機関やブラックロックとも組み、機関投資家向けの土台づくりを進めている。
この株を見るときに追う数字は、2つでいい。USDCの流通額と、米国の金利である。
前者は「どれだけ使われたか」を、後者は「$1 あたりいくら稼げるか」を表す。この掛け算が、売上のほぼすべてを決める。
30年で3回、アレールは同じ賭け方をしてきた。4回目が当たったかどうかは、9月16日から数えはじめることになる。
出典:
- Circle Reports Second Quarter 2026 Results(Circle 公式・2026年8月5日) — https://www.circle.com/pressroom/circle-reports-second-quarter-2026-results
- Circle Receives Final OCC Approval to Establish National Trust Bank(Circle 公式・2026年7月10日) — https://www.circle.com/pressroom/circle-receives-final-occ-approval-to-establish-national-trust-bank
- Circle Announces Pricing of Upsized Initial Public Offering(Circle 公式・2025年6月) — https://www.circle.com/pressroom/circle-announces-pricing-of-upsized-initial-public-offering
- 米大手ステーブルコイン、日本企業向け参入へ 野村と組み外貨即時決済(日本経済新聞・2026年6月) — https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB23BJW0T20C26A6000000/
- Investing.com「Circle Q2 2026 slides: USDC growth accelerates amid Arc expansion」(2026年8月) — https://www.investing.com/news/company-news/circle-q2-2026-slides-usdc-growth-accelerates-amid-arc-expansion-93CH-4837850





