インターネットは、文章も、音楽も、動画も飲み込んできた。ジェレミー・アレールは30年間、ずっと同じ問いを立て続けている——「次に飲み込まれるのは何か」。3社目の答えが、お金だった。
お金は、インターネットのスピードで動くべきだ
Circle が発行するUSDCは、常に1ドルと交換できる「デジタルのドル」。その流通額は約 $73B、世界のステーブルコイン取引の約7割を占める。そして2026年7月、米通貨監督庁(OCC)からデジタル通貨専門銀行の設立認可を勝ち取った。
モンテッソーリ育ちの政治学徒
1971年、ミネソタ州ミネアポリス生まれ。自主性を重んじるモンテッソーリ教育で育ち、大学の専攻はコンピュータではなく政治学と哲学だった。
技術は独学だ。卒業から2年後の1995年、プログラマーの兄JJと Allaire社 を創業する。作ったのは、Webサイトとデータベースを簡単につなぐ開発ツール ColdFusion。まだ「ホームページ」が珍しかった時代に、Webを「アプリケーションの場所」に変える道具だった。
同社は1999年に上場し、2001年にMacromediaへ売却。アレールは30歳でMacromediaのCTOになった。
「次にネットが飲み込むもの」を3回当てた男
アレールのキャリアは、同じパターンの繰り返しだ。
1社目のColdFusionは、Webがアプリを飲み込む前夜の道具だった。2社目のBrightcoveは2004年創業——YouTube誕生の1年前、ネットが動画を飲み込む直前だ。テレビ局や企業に動画配信の裏方を提供し、これも上場させた。
そして2013年、ビットコインが最初のブームを迎えた年に3社目のCircleを創業する。狙いは投機ではなく、「ネットがお金を飲み込む」ときの配管になることだった。
USDCという発明 — 儲けの正体は「金利」
USDCの仕組みは意外なほど単純だ。利用者が1ドル払うと、Circleは1USDCを発行する。預かった1ドルは短期の米国債など安全資産で保管され、いつでも1ドルに戻せる。
Circleの収益の柱は、この準備金が生む金利だ。流通額約$73Bの準備金が、金利のつく資産に置かれている——つまりUSDCが使われるほど、そして金利が高いほど儲かる。
今週のOCC認可は、この心臓部に関わる。準備金の管理を自前の信託銀行で行い、連邦の監督下に置く体制が整った。「怪しい暗号資産の会社」から「規制されたドルのインフラ」への格上げであり、株価は認可の報道で急伸した。日本でも野村との提携による決済事業が報じられている。
$31 → $250 → $64 の乱高下
Circle の株価は、2025年6月の上場から荒れ続けている。公開価格$31に対し、一時は8倍の$250まで買われ、その後$64前後まで往復した。
理由は、この会社の弱点がはっきりしているからだ。第一に収益が金利に依存する——利下げが進めば、同じ流通額でも収入が細る。第二に競争。流通残高では最大手テザー(USDT)を追う2位で、2026年には新興ステーブルコインも登場した。銀行や決済大手が同じ土俵に参入する将来も想定される。
取引量ではテザーの約2倍と「使われるドル」の地位を固めつつあるが、勝負はまだ序盤だ。
読み終わりに
アレールは、暗号資産の世界では珍しい「規制を武器にする」経営者だ。多くの同業がルールとの衝突を選ぶなか、彼は10年かけて免許と認可を集め、ドルそのものの配管になる道を選んだ。
Circle の株を見るときは、ビットコインの値段ではなく、USDCの流通額と米国の金利を見ると構造がつかめる。流通額は「どれだけ使われているか」、金利は「1ドルあたりいくら稼げるか」。この2つの掛け算が、この会社のほぼすべてだ。





