この記事の流れ(全5章)
就任してまもなく、ジム・ファーリーは電気自動車で勝つと宣言した。5 年後、その計画をたたんだのも本人だった。
仕様表で分かるのは物語の半分だ。ハンドルを握らないと競合には勝てない
フォードは 2025 年に $8.2B の純損失を出した。金額としては 2008 年の金融危機以来の大きさである。
ただし本業が傾いたわけではない。損の中身はほとんどが、作りかけでやめた電気自動車の設備と車種だった。
社員番号 389 番の、孫
1962 年、ブエノスアイレス生まれ。父は銀行員で、一家はのちに米国東部のコネチカット州へ移る。
自動車との縁は母方の祖父から来ている。エメット・トレーシーは T 型フォードを組み立てた初期の工員で、社員番号は 389 番だった。
ファーリーは今もその社員証を机に置いている。
ジョージタウン大学で経済学とコンピューター科学を学び、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で経営学修士を取った。
- 1962ブエノスアイレスで生まれる父の赴任先。育ちは米国コネチカット州
- 1990トヨタの米国法人へ。レクサス立ち上げに参加
- 2003若者向けブランド「サイオン」を任される
- 2007フォードへ移籍アラン・ムラリー社長に誘われて
- 2015フォード欧州事業の責任者
- 202010 月 1 日、社長に就任
- 2021再建計画「フォード・プラス」を発表
- 2022会社をガソリン車・電気自動車・商用車の三つに分ける
- 2023労働組合が 6 週間のストライキ、賃上げ 25% で妥結
- 2025電気自動車の計画を縮小し、$19.5B の特別損失を計上
- 2026米関税の一部が違法と判断され $1.3B の還付。電気自動車の赤字は3四半期連続で縮小
- 2027約 $30,000 の中型電動ピックアップを出す予定
最初の就職先はフォードではなかった。トヨタの米国法人に入り、高級車ブランドのレクサスを立ち上げる部隊で働いている。
のちに若者向けブランド「サイオン」を任された。無駄をそぎ落とす作り方と、ブランドを一から育てる仕事を、ここで覚えている。
トヨタには 17 年いた。2007 年、当時のフォード社長アラン・ムラリーに誘われて移る。
欧州事業、新興国事業、最高執行責任者と担当を広げ、2020 年 10 月に社長へ。祖父が工員として入った会社を、孫が率いることになった。
会社を三つに割った
2021 年、ファーリーは再建計画を発表した。名前は「フォード・プラス(Ford+)」。クルマを売って終わりにせず、その後も付き合いが続く商売へ変える、という宣言だ。
翌年、彼は珍しいことをした。会社を三つの事業に分け、それぞれの利益を別々に公表することにしたのだ。
狙いははっきりしていた。ガソリン車で稼ぎ、その金を電気自動車へ注ぎ込む。投資家には進み具合が数字で見える。
ところが実際は逆に転んだ。電気自動車の部門は 2023 年から毎年 $5B 前後の赤字を出し続ける。
2025 年の売上は $6.7B。三つの中でいちばん小さいのに、いちばん大きな損を出す事業になった。
看板政策を、自分でたたむ
2022 年のファーリーは強気だった。電気自動車に $50B を投じ、2026 年には年 200 万台を作ると公言している。
届いた数字は宣言とかけ離れた。米国で電気自動車を選ぶ人の増え方が、想定より何年も遅かったからだ。
その頃ファーリーは、中国のシャオミが作った電気自動車を上海から空輸させ、半年ほど自分の足に使っている。感想は率直だった。手放したくない、と公の場で認めている。
2025 年 12 月、彼は向きを変える。大型の電気トラックの計画を中止し、設備をまとめて損として落とした。
代わりに前へ出したのは、安いほうの電気自動車だ。2027 年、ケンタッキー州の工場から約 $30,000 の中型ピックアップを出す。
部品を 2 割減らし、組み立ての工程も削る設計にした。高い車を少し売るのではなく、安い車をたくさん売って利益を出す形へ切り替えたことになる。
この転換の評価は割れている。判断が遅れた末の $19.5B とも読めるし、傷が浅いうちに止めたとも読める。
もうけていたのは、地味なほうだった
電気自動車の騒ぎの陰で、静かに伸びた事業がある。商用車のフォード・プロだ。
配送業者や工事業者にバンやトラックを売り、そのあと整備と部品と管理ソフトで稼ぎ続ける。
「売って終わりにしない商売」を、ファーリーは電気自動車ではなく商用車のほうで実現したことになる。
2025 年、この部門だけで $6.8B を稼いだ。特別損失を除いた会社全体の利益と、ほぼ同じ額である。
車両の位置や燃費を管理する有料ソフトの契約は 84 万件まで増えた。1 年で 3 割の伸びである。
自動車産業の未来を知りたいなら、テスラではなくフォード・プロを見てほしい
弱点も同じ場所にある。利益がピックアップと商用車に寄っており、この二つが同時に鈍ると受け皿がない。
人件費も上がった。2023 年のストライキ後に結んだ契約は、北米の労務費を $8.8B 押し上げる。
読むときに見る二つ
フォードの株を見るなら、四半期の売上より先に商用車部門の利益を確認するとよい。ここが崩れないかぎり、電気自動車の赤字は耐えられる範囲に収まる。
2026 年 4〜6 月期、電気自動車部門の赤字は前の四半期からさらに縮み、3 四半期連続の改善になった。黒字にはまだ遠いが、向きは上がっている。
もう一つは 2027 年の $30,000 のピックアップだ。ファーリーが計画をたたんだうえで賭け直した一台であり、これが売れなければ次の札は残っていない。
祖父の社員証が机にある会社で、彼は自分の看板を一度たたんだ。次に立てる看板が売れるかどうかが、そのまま答えになる。
出典:
- Ford Motor Company「Ford Reports Fourth-Quarter, Full-Year 2025 Financial Results」 — https://www.fromtheroad.ford.com/us/en/articles/2026/ford-reports-fourth-quarter-full-year-2025-financial-results
- Ford Motor Company Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/37996/000003799626000015/f-20251231.htm
- Ford Motor Company「Ford's $5B Bet on America: New EV Platform, Assembly Process and Midsize Truck」 — https://www.fromtheroad.ford.com/us/en/articles/2025/ford-affordable-electric-vehicle-platform-midsize-electric-truck
- CNBC「Ford to record $19.5 billion in special charges as it pulls back on EV plans」 — https://www.cnbc.com/2025/12/15/ford-ev-pullback.html
- Fortune「Ford CEO Jim Farley has been driving a Chinese-made Xiaomi EV for 6 months」 — https://fortune.com/2024/10/23/ford-ceo-jim-farley-driving-chinese-xiaomi-electric-vehicle/
- CBS News「Ford to receive $1.3 billion government refund for Trump's IEEPA tariffs」 — https://www.cbsnews.com/news/ford-1-3-billion-ieepa-tariff-refund-trump/
- Ford Motor Company「4 Things to Know About Ford's Second-Quarter Results」 — https://www.fromtheroad.ford.com/us/en/articles/2026/ford-reports-second-quarter-2026-financial-results




