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Ford Motor · Fプロ経営者

ジム・ファーリー

Jim Farley

社長・CEO生年 1962/ アルゼンチン・ブエノスアイレス

看板をたたんだ人

トヨタで 17 年、フォードで 19 年。2020 年に社長となり電気自動車に賭けたが、2025 年に自らその計画をたたみ、商用車を会社の柱に据え直した。

2026.06.256 分で読める内容確認 2026.08.26

自動車 · 電気自動車 · 商用車

裏にいる会社を辿る → 裏に 25 社

経営の型

在任 2020.10〜現在 / 集計 FY2021〜2025・5 期 (在任外の 7 期は除外)
安定運営型

売上も利益率も大きく動かさず、同じ手順を積み上げる。

この人を通して見る数字。見るのは少しずつ上がる利益率と、大きな買収や投資で急に手順を変えていないか。派手さの無さが値打ち。

売上の伸び振れ 小
中央値
+8.2%
ブレ
±5.7pp
前年割れ
0 回
利益率振れ 中
営業利益率 平均
1.7%
ブレ
±3.3pp
資本配分一定
設備投資/売上
4.7%
配当を出した年
100%

良い・悪いを表す点数ではありません。業界の構造、景気、市況、会社の成熟度も同じ数字に映ります。型は本人の期間の決算から機械的に読んだもの (基準: 成長率のブレ 8pp 以下、利益率のブレ 4pp 以下)。出典は SEC EDGAR の年次報告。

この記事の流れ(全5章)
  1. 01社員番号 389 番の、孫
  2. 02会社を三つに割った
  3. 03看板政策を、自分でたたむ
  4. 04もうけていたのは、地味なほうだった
  5. 05読むときに見る二つ

就任してまもなく、ジム・ファーリーは電気自動車で勝つと宣言した。5 年後、その計画をたたんだのも本人だった。

仕様表で分かるのは物語の半分だ。ハンドルを握らないと競合には勝てない

— ジム・ファーリー

フォードは 2025 年に $8.2B の純損失を出した。金額としては 2008 年の金融危機以来の大きさである。

ただし本業が傾いたわけではない。損の中身はほとんどが、作りかけでやめた電気自動車の設備と車種だった。

数字で読む

社長在任
6年目2020 年 10 月〜
2025 年の純損失
-$8.2B2008 年以来の大きさ
商用車部門の利益
$6.8B会社全体の調整後利益とほぼ同額
F シリーズ販売
82.8万台49 年連続で米国一
01

社員番号 389 番の、孫

1962 年、ブエノスアイレス生まれ。父は銀行員で、一家はのちに米国東部のコネチカット州へ移る。

自動車との縁は母方の祖父から来ている。エメット・トレーシーは T 型フォードを組み立てた初期の工員で、社員番号は 389 番だった。

ファーリーは今もその社員証を机に置いている。

ジョージタウン大学で経済学とコンピューター科学を学び、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で経営学修士を取った。

  1. 1962
    ブエノスアイレスで生まれる
    父の赴任先。育ちは米国コネチカット州
  2. 1990
    トヨタの米国法人へ。レクサス立ち上げに参加
  3. 2003
    若者向けブランド「サイオン」を任される
  4. 2007
    フォードへ移籍
    アラン・ムラリー社長に誘われて
  5. 2015
    フォード欧州事業の責任者
  6. 2020
    10 月 1 日、社長に就任
  7. 2021
    再建計画「フォード・プラス」を発表
  8. 2022
    会社をガソリン車・電気自動車・商用車の三つに分ける
  9. 2023
    労働組合が 6 週間のストライキ、賃上げ 25% で妥結
  10. 2025
    電気自動車の計画を縮小し、$19.5B の特別損失を計上
  11. 2026
    米関税の一部が違法と判断され $1.3B の還付。電気自動車の赤字は3四半期連続で縮小
  12. 2027
    約 $30,000 の中型電動ピックアップを出す予定

最初の就職先はフォードではなかった。トヨタの米国法人に入り、高級車ブランドのレクサスを立ち上げる部隊で働いている。

のちに若者向けブランド「サイオン」を任された。無駄をそぎ落とす作り方と、ブランドを一から育てる仕事を、ここで覚えている。

トヨタには 17 年いた。2007 年、当時のフォード社長アラン・ムラリーに誘われて移る。

欧州事業、新興国事業、最高執行責任者と担当を広げ、2020 年 10 月に社長へ。祖父が工員として入った会社を、孫が率いることになった。

02

会社を三つに割った

2021 年、ファーリーは再建計画を発表した。名前は「フォード・プラス(Ford+)」。クルマを売って終わりにせず、その後も付き合いが続く商売へ変える、という宣言だ。

翌年、彼は珍しいことをした。会社を三つの事業に分け、それぞれの利益を別々に公表することにしたのだ。

2025年、クルマ3事業の売上はこう分かれた
ガソリン車 (フォード・ブルー)$101B(F-150 など)商用車 (フォード・プロ)$66B(配送・工事の現場向け)電気自動車 (フォード・モデル e)$6.7B($6.7B・全体の 4%)
金融のフォード・クレジットを除いた3事業。売上でいちばん小さい電気自動車が、そのまま最大の赤字の出どころになった

狙いははっきりしていた。ガソリン車で稼ぎ、その金を電気自動車へ注ぎ込む。投資家には進み具合が数字で見える。

ところが実際は逆に転んだ。電気自動車の部門は 2023 年から毎年 $5B 前後の赤字を出し続ける。

2025 年の売上は $6.7B。三つの中でいちばん小さいのに、いちばん大きな損を出す事業になった。

03

看板政策を、自分でたたむ

2022 年のファーリーは強気だった。電気自動車に $50B を投じ、2026 年には年 200 万台を作ると公言している。

届いた数字は宣言とかけ離れた。米国で電気自動車を選ぶ人の増え方が、想定より何年も遅かったからだ。

その頃ファーリーは、中国のシャオミが作った電気自動車を上海から空輸させ、半年ほど自分の足に使っている。感想は率直だった。手放したくない、と公の場で認めている。

2025 年 12 月、彼は向きを変える。大型の電気トラックの計画を中止し、設備をまとめて損として落とした。

5年かけて、賭け方をこう変えた
2022|追う
電気自動車に $50B。年 200 万台をめざす
2023-25|損が続く
電気自動車の部門は毎年 $5B 前後の赤字
2025|たたむ
大型の計画を中止。特別損失 $19.5B
2027|出直す
約 $30,000 の中型電動ピックアップ
いまの目標は2029年に電気自動車で黒字化すること。当初の「2026年に年200万台」からは大きく後退している

代わりに前へ出したのは、安いほうの電気自動車だ。2027 年、ケンタッキー州の工場から約 $30,000 の中型ピックアップを出す。

部品を 2 割減らし、組み立ての工程も削る設計にした。高い車を少し売るのではなく、安い車をたくさん売って利益を出す形へ切り替えたことになる。

この転換の評価は割れている。判断が遅れた末の $19.5B とも読めるし、傷が浅いうちに止めたとも読める。

04

もうけていたのは、地味なほうだった

電気自動車の騒ぎの陰で、静かに伸びた事業がある。商用車のフォード・プロだ。

配送業者や工事業者にバンやトラックを売り、そのあと整備と部品と管理ソフトで稼ぎ続ける。

「売って終わりにしない商売」を、ファーリーは電気自動車ではなく商用車のほうで実現したことになる。

2025 年、この部門だけで $6.8B を稼いだ。特別損失を除いた会社全体の利益と、ほぼ同じ額である。

車両の位置や燃費を管理する有料ソフトの契約は 84 万件まで増えた。1 年で 3 割の伸びである。

自動車産業の未来を知りたいなら、テスラではなくフォード・プロを見てほしい

— ジム・ファーリー

弱点も同じ場所にある。利益がピックアップと商用車に寄っており、この二つが同時に鈍ると受け皿がない。

人件費も上がった。2023 年のストライキ後に結んだ契約は、北米の労務費を $8.8B 押し上げる。

05

読むときに見る二つ

フォードの株を見るなら、四半期の売上より先に商用車部門の利益を確認するとよい。ここが崩れないかぎり、電気自動車の赤字は耐えられる範囲に収まる。

2026 年 4〜6 月期、電気自動車部門の赤字は前の四半期からさらに縮み、3 四半期連続の改善になった。黒字にはまだ遠いが、向きは上がっている。

もう一つは 2027 年の $30,000 のピックアップだ。ファーリーが計画をたたんだうえで賭け直した一台であり、これが売れなければ次の札は残っていない。

祖父の社員証が机にある会社で、彼は自分の看板を一度たたんだ。次に立てる看板が売れるかどうかが、そのまま答えになる。

出典:

  • Ford Motor Company「Ford Reports Fourth-Quarter, Full-Year 2025 Financial Results」 — https://www.fromtheroad.ford.com/us/en/articles/2026/ford-reports-fourth-quarter-full-year-2025-financial-results
  • Ford Motor Company Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/37996/000003799626000015/f-20251231.htm
  • Ford Motor Company「Ford's $5B Bet on America: New EV Platform, Assembly Process and Midsize Truck」 — https://www.fromtheroad.ford.com/us/en/articles/2025/ford-affordable-electric-vehicle-platform-midsize-electric-truck
  • CNBC「Ford to record $19.5 billion in special charges as it pulls back on EV plans」 — https://www.cnbc.com/2025/12/15/ford-ev-pullback.html
  • Fortune「Ford CEO Jim Farley has been driving a Chinese-made Xiaomi EV for 6 months」 — https://fortune.com/2024/10/23/ford-ceo-jim-farley-driving-chinese-xiaomi-electric-vehicle/
  • CBS News「Ford to receive $1.3 billion government refund for Trump's IEEPA tariffs」 — https://www.cbsnews.com/news/ford-1-3-billion-ieepa-tariff-refund-trump/
  • Ford Motor Company「4 Things to Know About Ford's Second-Quarter Results」 — https://www.fromtheroad.ford.com/us/en/articles/2026/ford-reports-second-quarter-2026-financial-results
公開情報(各社開示・公的資料・各種報道)を編集してまとめたものです。 人物評価には筆者の解釈を含みます。投資判断は別途、自身の責任で行ってください。