世界の年金、退職金、政府基金。その多くが BlackRock のシステム Aladdin で運用されている。預かり資産は $11.5T を超え、ラリー・フィンクは「地球で最も多くの資金を動かす民間人」だ。
資本主義は変わらなければならない。ステークホルダー全員のために
1988 年にニューヨークのアパートで 8 人で創業した会社が、現在は 約 21,000 人の従業員と $11.5T の運用資産を持つ。iShares ETF という商品カテゴリで個人投資家にも届き、Aladdin というリスク管理プラットフォームで機関投資家のインフラを握る。
カリフォルニアの靴屋の息子から、Wall Street へ
1952 年、ロサンゼルス郊外のヴァンナイズで生まれる。父は地元の靴屋、母は英文学の大学講師。UCLA で政治学を学び、UCLA のアンダーソン経営大学院で MBA。1976 年に First Boston(後のクレディ・スイス)に入社し、債券部門でキャリアを始める。
First Boston では 住宅ローン担保証券(MBS)市場の黎明期を担当し、1980 年代に 30 代の主要トレーダーに。だが 1986 年、金利の急上昇でフィンクのチームは 四半期で $100M の損失を出す。これがフィンクの転機になった。「リスクが見えていなかった」という後悔から、リスク分析を「会社の根幹」に据える発想が生まれる。
1988 年、First Boston を辞めて 7 人の仲間と Blackstone(スティーブ・シュワルツマン率いる PE 大手)の子会社として BlackRock を創業。1994 年に独立、1999 年に NYSE 上場。2009 年に Barclays から iShares を $13.5B で買収、ETF の世界覇権が決まった。
ETF と Aladdin の両輪
BlackRock の事業構造は 2 つの柱で説明される。
1. iShares ETF: 個人投資家向けの低コスト ETF。S&P 500、新興国、債券、コモディティ。世界の ETF 預かり資産の 4 割を握り、Vanguard と State Street の追随を許さない。安定したフィー収入源。
2. Aladdin: 機関投資家向けのリスク管理・運用プラットフォーム。ポートフォリオの分析、リスクシナリオ、決済まで一体提供。全世界の運用会社・年金・政府基金の多くが Aladdin を使っているため、BlackRock は競合の運用会社にとっても「インフラ提供者」になる。
近年は プライベート市場(PE、私募クレジット、インフラ)への拡大が戦略の核に。2024 年に Global Infrastructure Partners(GIP)を $12.5B で買収、2025 年に HPS Investment Partners を $12B で買収。「公開市場 + 私募市場の両刀」という運用会社像を作っている。
「ステークホルダー資本主義」の旗手
フィンクの社会的影響力は、運用残高以上の力を持つ。毎年 1 月に発表する CEO 向け年次書簡は、世界の主要企業に 「環境・社会・ガバナンス(ESG)」 を意識させる事実上の圧力になった。Tesla、Exxon、Disney など多くの企業が書簡を読み解いて IR 戦略を組み立てる。
長期的なリターンは、社会全体の長期的な健全さなしには得られない
ただし 2022〜2024 年に ESG 反動が起きた。米国共和党系の州(テキサス、フロリダなど)が「BlackRock は化石燃料に厳しすぎる」と公的資金を引き揚げる動きを見せ、フィンクは「ESG ではなく Conscious Capitalism」と表現を変えて議論を整理し直した。政治の左右両側から叩かれる位置にいることが、彼の難しさだ。
社員管理は厳格だが、Wall Street の他大手より「チーム志向」と言われる。フィンクは「One BlackRock」を繰り返し、サイロ化を嫌う。運用責任者・営業責任者・テック責任者を頻繁にローテーションさせる人事を続けている。
後継者、政治、そして「大きすぎる」問題
フィンクは 73 歳。健康問題は出ていないが、後継者問題は市場の注目点だ。サラ・ホセ(Wal-Mart 元 CFO、現 BlackRock 社長)、ロブ・カピート(共同創業者、社長)、マーティン・スモール(CFO)、ラリッサ・グッゲンハイマー(プライベート市場責任者) などが候補。GIP・HPS 買収の責任者である マーク・ワイドマンもダークホースだ。
第二のリスクは 規制。「Too Big to Manage」 という議論が以前から続く。BlackRock は世界の主要上場企業の 平均 7% 程度を保有する大株主で、議決権行使がガバナンスを実質的に握る構図に。米国・欧州の規制当局は、運用会社を「システム重要金融機関(SIFI)」に指定する選択肢を検討している。
そして 政治。フィンクは民主党寄りと見られているが、トランプ政権下で BlackRock は ウクライナ復興基金の運用にも関わるなど、政府との関係は複雑。「$11T を動かす男」が、選挙のたびに政治の標的にされる時代になっている。
読み終わりに
フィンクの面白さは、「リスク管理者として始まった人物が、世界の資本市場の主要インフラを作った」という経路にある。1986 年に $100M の損失を出した経験が、Aladdin というリスク・プラットフォームを生み、それが BlackRock を運用会社から「金融インフラ企業」に変えた。失敗が事業の核になった、稀な例だ。
BlackRock の株を見るときは、四半期売上より プライベート市場の預かり資産の伸びと 後継者発表のタイミングを読むと、見え方が変わる。フィンクが残す最後の作品が 「公開 + 私募の統合運用会社」として完成するか、それとも 規制で分割を迫られるか — そこに次の 10 年が見える。





