この記事の流れ(全5章)
2014年4月、最高経営責任者になって3か月足らずのメアリー・バーラは、米議会の証言台にいた。自社の欠陥を認めるためだった。
ゼネラルモーターズは2009年に一度倒産した会社である。政府の資金で救われ、作り直された。
その頂点に、工場労働者の娘が座った。以来12年、彼女がやってきたことの多くは、何かをやめる判断だった。
18歳で工場に入り、34年かけて頂点へ
1961年、ミシガン州のデトロイト郊外に生まれた。父レイはGMのポンティアック工場で金型を作る職人で、39年間そこに勤めた。
1980年、18歳でGMの実習生になる。会社が持つケタリング大学に通いながら工場で働く制度で、当時はGMインスティテュートと呼ばれていた。
専攻は電気工学。学生時代の持ち場は、ポンティアック・フィエロという小型スポーツカーの車体検査だった。
1985年に学位を取って正社員になり、1990年には会社の費用でスタンフォード大学へ送られ、経営学修士(MBA)を取る。
戻ってからは工場の設計、人事、商品開発と持ち場を移した。技術者が人事の責任者に就くのは、社内でも異例だった。
2011年に商品開発の責任者となり、2014年1月に最高経営責任者へ。米国の大手3社で、女性がその席に就くのは初めてだった。
- 1961ミシガン州で生まれる父はGMの工場で39年働いた
- 198018歳でGMの実習生に、ケタリング大学で電気工学
- 1985学位を取り、正社員として入社
- 1990会社の費用でスタンフォード大学へ、経営学修士を取得
- 2009GMが破産法の適用を申請、政府の資金で再建
- 2011商品開発の責任者に
- 2014最高経営責任者に就任、米大手3社で初の女性
- 2014点火スイッチの欠陥で260万台をリコールのちに124人の死亡が認定される
- 2016取締役会の会長を兼務
- 2017欧州のオペルとボクスホールを売却、インドでの国内販売も終了
- 20212035年までに乗用車をすべて電気自動車にすると宣言
- 2023全米自動車労働組合が6週間のストライキ、25%の賃上げで妥結
- 2024自動運転子会社クルーズの無人タクシー事業を打ち切り
- 2025電気自動車の設備を縮小、10〜12月だけで約 $7.2B を特別損失に計上
- 2026中国の合弁を2047年まで延長、通期の純利益見通しを2度目の上方修正
就任直後に、自社の欠陥を認めた
2014年2月、GMは260万台のリコールを発表する。走行中に点火スイッチが切れ、エンジンとエアバッグが同時に止まる欠陥だった。
社内では10年以上前から知られていた。それでも公表されないまま、事故が積み上がっていった。
4月1日、バーラは米下院の公聴会に呼ばれる。就任から3か月足らずでの証言だった。
今日の GM は、正しいことをする
過去の判断は間違っていた、と彼女は認めた。会社を守る答弁をしなかったことに、業界からは驚きの声が上がった。
この欠陥は最終的に124人の死亡と275人の負傷に結びつけられる。刑事罰の $900M と被害者基金の $594.5M を含め、支払いは約 $2.5B に達した。
悪い数字を先に出す。この一件が、そのあと12年のやり方を決めた。
12年は、やめた事業の数で数えられる
バーラの経営は、増やす方向より減らす方向に振れてきた。
2015年にロシアでの量産をやめた。2017年には欧州のオペルとボクスホールをフランスの自動車大手へ売り、インドでの国内販売も終えた。2020年には豪州のホールデンを畳んだ。
どれも赤字か、その一歩手前の事業だった。売上は減るが、利益率は上がる。
いちばん大きな撤退は自動運転だった。GMは2016年にクルーズという新興企業を買い、運転手のいないタクシーに $10B 以上を注ぎ込んだ。
2023年、サンフランシスコで歩行者を巻き込む事故が起き、営業許可が止まる。
2024年12月、バーラは無人タクシー事業そのものを打ち切った。技術は市販車の運転支援へ回し、年 $1B 以上の支出を止めている。
電気自動車も、途中で速度を落とした
2021年、バーラは2035年までに乗用車をすべて電気自動車にすると宣言した。アルティウム(Ultium)と名付けた自社設計の電池を土台に、新型を並べる計画だった。
売れ行き自体は悪くない。2025年の米国販売は約17万台で、前年より48%増えた。シボレーは米国で2番目に売れる電気自動車のブランドになった。
それでも計画は削られる。米政府が1台あたり $7,500 の税優遇を打ち切り、燃費規制も緩めたためだ。
2025年10〜12月、GMは電気自動車の設備と投資を約 $7.2B 分まとめて損失に計上した。関連の特別損失は累計で $10.9B になっている。
私たちは、お客さまの需要がある場所に合わせて調整する。導いてくれるのはお客さまだ
宣言そのものは取り下げていない。ただ、2035年という年号を自分から口にすることは減った。
やめなかったもの
削り続けた12年で、バーラが手をつけなかった事業がある。北米の大型ピックアップトラックと多目的車(SUV)だ。
2025年、会社全体の純利益は $2.7B だった。その裏で北米部門は $10.5B の営業利益(調整後)を稼いでいる。
2026年4〜6月の1台あたり平均販売価格は $52,000。値引きを抑え、台数ではなく単価で稼ぐ形を崩していない。
同じ考えは、株数の扱いにも出ている。
中国も、やめなかった。
かつて年200万台を売った市場で、2025年の販売は56万台まで落ちた。工場と車種を削り、2年続けて赤字を出している。
それでも2026年8月、合弁相手の上汽集団(SAIC)との契約を2047年まで20年延ばした。2026年上半期の持分利益は $248M の黒字に戻っている。
この株を追うなら、見る数字は3つでいい。北米の1台あたり単価、電気自動車の販売台数、そして中国が黒字を保てるかどうかだ。
父が39年勤めた会社は、娘の12年で守備範囲を大きく狭めた。欧州も豪州もロシアも手放し、無人タクシーの夢も畳んだ。
次の経営者に渡されるのは、世界中で戦うGMではない。バーラが選んで残した、北米で確実に稼ぐほうのGMである。
出典:
- General Motors「GM releases 2025 financial results and 2026 guidance」(2026年1月27日) — https://www.prnewswire.com/news-releases/gm-releases-2025-financial-results-and-2026-guidance-board-declares-dividend-at-20-higher-quarterly-rate-and-approves-new-6-0-billion-share-repurchase-authorization-302670831.html
- General Motors Form 10-K 一覧, U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001467858&type=10-K
- GM Newsroom「GM to refocus autonomous driving development on personal vehicles」(2024年12月10日) — https://news.gm.com/home.detail.html/Pages/news/us/en/2024/dec/1210-gm.html
- CNN Money「GM CEO Barra: 'I am deeply sorry'」(2014年4月1日) — https://money.cnn.com/2014/04/01/news/companies/barra-congress-testimony/
- CNBC「GM, Chinese automaker extend joint venture for 20 years」(2026年8月4日) — https://www.cnbc.com/2026/08/04/gm-chinese-automaker-extend-tie-up-amid-geopolitical-tensions-with-us.html





