GM 創業 100 年で初めての女性 CEO。メアリー・バーラは 18 歳で GM のインターンとして入社し、35 年かけて頂点に立った。
クルマは変わる。デトロイトの会社も変わらないといけない
2014 年の CEO 就任直後に発覚した イグニッション・スイッチ・リコール問題(124 名死亡)から始まり、彼女の 12 年は 危機対応、SUV・トラックでの利益確保、EV シフトの連続だった。GM の時価総額は $77B、Tesla の 20 分の 1 だが、米国の自動車製造業の規模感を維持する難題に向き合い続けている。
デトロイトの工場の少女から、GM の頂点へ
1961 年、ミシガン州ウォーターフォード(デトロイト郊外)で生まれる。父は GM のポンティアック工場のダイ製造担当工員、39 年勤続。「家のテーブルでクルマの話しかしなかった」と本人が振り返る、典型的なデトロイトの自動車労働者家庭だ。
1980 年、18 歳で GM 系の Kettering 大学(旧 GMI)に進学、同時に GM のインターン制度で工場に配属。クルマ作りを大学と現場の両方で学んだ。Pontiac Fiero(小型スポーツカー)の品質検査から始まり、徐々に責任範囲を広げる。
1988 年に スタンフォード大学 MBA(GM 後援)。1990 年代以降、GM 内で エンジニアリング、人事、生産、グローバル製品開発と段階的にキャリアを積む。2011 年に「グローバル製品開発担当上級副社長」、2014 年 1 月に CEO 就任。GM 入社から 33 年での頂点だった。
「全車種 EV 化」と現実の壁
バーラの 12 年の最大の賭けは 「2035 年までに全車種 EV 化」という 2021 年の宣言。Ultium と呼ばれる自社設計の電池プラットフォームを開発し、Chevrolet Bolt、Cadillac Lyriq、GMC Hummer EV、Chevy Silverado EV など複数モデルを順次投入する戦略だった。
ただし 2023〜2025 年の現実は厳しい。EV 需要が予想を下回り、北米消費者は ハイブリッドと SUV に戻った。GM は 2024 年に EV 移行の目標を下方修正、Chevy Bolt の一時生産停止、Cadillac の EV 専用モデル化計画を一部撤回。現実的なペースに戻す方向にバーラは舵を切った。
並行して Cruise(自動運転子会社)の縮小。2023 年にサンフランシスコでの歩行者事故をきっかけにロボタクシー運営停止、その後段階的な人員削減で、自動運転の独立事業化シナリオは事実上撤回になった。Tesla の FSD、Waymo の進化に対し、Cruise は競争力を失った。
利益の源泉は依然として 北米の SUV・ピックアップトラック。Chevy Tahoe、GMC Sierra、Cadillac Escalade。「内燃機関で稼いだ利益で EV 移行を支える」という従来路線を、ジム・ファーリー(Ford)と並んで継続している。
工場育ちの経営者
バーラのスタイルは 「工場の現場が分かる CEO」。エンジニア出身で、GM 内では「Mary がエンジニアリング会議に出ると判断が速い」と評される。MBA は持つが、根は工学の人。
私の父は GM で 39 年働いた。私が GM を経営しているのは、彼が信じた会社をもう一度信じてもらうため
社員管理は 「冷静で、率直」。イグニッション・スイッチ問題のとき、社内調査の結果を 米国議会公聴会で素直に認め、「会社の過去の判断は間違っていた」と公言した。これが業界内で評価された一方、「自社を守らない CEO」という冷ややかな見方もあった。
全米自動車労働組合(UAW)との関係は微妙だ。2023 年の 6 週間のストライキで、UAW は GM・Ford・Stellantis に対し 賃上げ 25%、退職金引き上げ、EV 工場の組合化 を要求。バーラは妥結に応じたが、これが GM のコスト構造を悪化させ、利益率を圧迫する要因になっている。「労働組合と EV 投資の両立」が、バーラの最大の難題だ。
中国市場の縮小と、後継者問題
GM の最大のリスクは 中国市場の縮小。GM は長年、上汽通用(SAIC-GM)を通じて中国で年 400 万台超を売る世界最大級のメーカーだったが、中国国産 EV(BYD、Nio、Xpeng)の台頭で 2024 年の中国販売は半減。「GM の中国収益貢献ゼロ化」を見越した予算編成が始まっている。
第二のリスクは 北米市場への過度な依存。欧州 Opel は 2017 年に売却、中国は縮小、ロシアは撤退、南米も限定的。実質的に北米だけの自動車会社になりつつあり、政策・関税・経済サイクルへの感応度が高い。
そして 後継者問題。バーラは 64 歳。マーク・ロイス(社長)、マイク・アボ(COO 候補)、ボブ・ヴァロン(電気自動車部門責任者) などが社内候補だが、「Mary の後継として GM を率いる人物」の明示はまだ。2027〜2029 年のどこかでの交代が市場の見通しだ。
読み終わりに
バーラの面白さは、「米国の自動車産業の象徴的な復興物語」を体現している点にある。父がポンティアック工場で 39 年働いた会社が、2008 年に倒産し政府救済を受け、それを娘が CEO として 12 年かけて立て直す。米国製造業の物語そのものだ。
GM の株を見るときは、四半期売上より EV の販売台数推移と 中国市場の販売減のペースを読むと、見え方が変わる。バーラが残す最後の作品が 米国製造業として EV 時代に生き残る GMなのか、それとも 北米のピックアップトラック専業会社への縮小なのか — そこに次の 5 年が見える。





