House of Cards、Stranger Things、Squid Game、The Crown、Wednesday、3 Body Problem。Netflix オリジナル作品の名作群を企画・発注したのは、すべてこの男だ。
私たちの仕事は、観客が次に何を見たいか、それを観客より早く知ることだ
サランドスは Netflix のコンテンツ部門を 25 年率いた後、2020 年に共同 CEO に昇格。リード・ヘイスティングス(共同創業者)が 2023 年に CEO 退任、現在は グレッグ・ピーターズと共同 CEO 体制で Netflix を率いる。年間 $170 億超のコンテンツ予算を握る、世界最強のコンテンツバイヤーだ。
ビデオレンタル店員から、Netflix のコンテンツ責任者へ
1964 年、アリゾナ州フェニックスでギリシャ系の家庭に生まれる。父は電気技師、母は美容師。アリゾナ州立大学に短期通うが、家計のために大学を中退。地元のビデオレンタルチェーン「Video City」で店員として働き始めた。これがメディア業界との最初の接点だった。
ビデオ店員から徐々に昇格し、1988 年に「Arizona Video Cassettes West」のマーケティング・営業責任者、その後 「ETD(Electronic Theatre Distributors)」のホームビデオ販売責任者へ。ビデオ流通の現場で 12 年、業界の最新作・名作・マイナー作品の傾向を肌で知った。
2000 年、リード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフ(Netflix 共同創業者)がコンテンツ責任者として採用。当時の Netflix は 「郵送 DVD レンタル」のスタートアップで、社員数は数十人。サランドスは コンテンツ調達を任され、ハリウッドのスタジオから DVD タイトルを買い集める仕事から始まった。
「観客より早く知る」アルゴリズム + 直感
サランドスのコンテンツ戦略の核は 「データ分析と現場感の組合せ」。Netflix は世界最大級の視聴データ(3 億人の視聴履歴、好み、離脱パターン)を持ち、サランドスはこれを 新作企画の判断材料に使う。
House of Cards(2013): ハリウッドのスタジオが「ケビン・スペイシー主演の政治ドラマは中堅止まりだろう」と言う中、Netflix は「スペイシー + フィンチャー監督の組合せが視聴データで強い」と判断、$100M 予算で 2 シーズン同時発注。これが Netflix オリジナル時代の幕開けだった。
Stranger Things(2016): 一見「1980 年代懐古モノのインディーズ作品」だが、サランドスは「ノスタルジア + 児童ホラーの組合せが過去データで強い」と確信。世界的現象になった。
Squid Game(2021): 韓国の中堅プロデューサーが 10 年売り込めなかった脚本。サランドスは 「韓国コンテンツのグローバル化」を信じ、$21M 予算で発注。世界 90 ヶ国で視聴 1 位、過去最高の Netflix 番組となった。
これらは 「データだけでも、直感だけでも作れない」企画だ。サランドスは「データ + 直感」の交差点でコンテンツを選ぶ才能で評価された。
ハリウッドの「外様」から「主要プレイヤー」へ
サランドスを評するハリウッドの言葉は変遷してきた。2000 年代: 「ビデオ店員出身の若造」。2010 年代: 「コンテンツ予算を持つ外様」。2020 年代: 「ハリウッドの主要意思決定者の一人」。
クリエイターとは数字の話をしない。物語の話をする
ハリウッドの大物プロデューサー・監督との関係構築に多大な時間を割く。シャンダ・ライムズ、ライアン・マーフィー、デビッド・フィンチャー、マーティン・スコセッシ、デル・トロ、グレタ・ガーウィグなどの大物クリエイターと マルチイヤー契約を結び、Netflix を「クリエイター・ファースト」のプラットフォームに位置付けた。
私生活では、女優のニコール・アヴァント(前駐バハマ米国大使)と 2009 年に結婚。ハリウッドの社交界での存在感も大きい。サランドス自身は政治献金やメディア出演を比較的控えめにしているが、ハリウッドのオピニオン・リーダーとしての位置は確立されている。
広告とゲームへの拡張、競争激化
Netflix の現在の課題は 加入者成長の鈍化。世界 3 億人超の有料加入者を抱えるが、北米・欧州は飽和、新興市場は ARPU(一人当たり売上)が低い。「次の収益源」を急いで作る必要がある。
サランドスの 2022〜2025 年の重要な判断:
1. 広告付きプランの導入: 月額 $7.99 の安価プランに広告を入れ、新規顧客を呼び込む。ヘイスティングスは長年「広告は入れない」と公言していたが、サランドスとピーターズが方針転換を決断した。広告売上は 2025 年で年 $20 億超に成長。
2. パスワード共有の制限: 2023〜2024 年に世界規模で実施。短期的に解約者を増やしたが、結果として有料加入者は純増。
3. ゲーム事業: モバイルゲームを無料で会員に提供、「ストリーミングを超えるエンタメ・プラットフォーム」を目指す。まだ収益貢献は限定的だが、若年層獲得の戦略として継続。
競合は Disney+、Amazon Prime Video、Apple TV+、YouTube、TikTok。コンテンツ予算の戦争は終わらず、Netflix は $170 億予算を維持しながら、利益率を改善する綱渡りを続けている。
読み終わりに
サランドスの面白さは、「アリゾナのビデオ店員から、世界最強のコンテンツバイヤーへ」という極めて非伝統的な経歴と、それを 25 年かけて完成させた粘り強さにある。ハリウッドの中心地ではなく 「外様」として始まり、徐々に主流に組み込まれていく軌跡が、Netflix の業界破壊そのものを体現している。
Netflix の株を見るときは、四半期加入者数より 広告売上の成長率と オリジナル作品の世界視聴比率を読むと、見え方が変わる。サランドスが残す最後の作品が 「ストリーミング後の次世代エンタメ・プラットフォーム」なのか、それとも 「コンテンツ予算の戦争で疲弊した Netflix」なのか — そこに次の 5 年が見える。





