この記事の流れ(全5章)
2026 年 2 月、テッド・サランドスは $72B の買収から降りた。ハリウッド史上最大の買い物になるはずだった案件を、価格が合わないという理由で手放した。
この人は、試作を 1 本も撮らないまま $100M を出したことで名前が知られた。大胆な買い手というのが 15 年来の評判である。
その同じ人が、社運を賭けた案件を途中で降りた。二つの判断は、実は同じ物差しから出ている。
$72B の買収から降りた日
2025 年 12 月、ネットフリックスはワーナー・ブラザースの映画部門と配信部門を $72B で買う契約を結んだ。ケーブルテレビ事業は買わない、という選び方だった。
ところが 2026 年 2 月、パラマウント・スカイダンスが 1 株 $31 で全部まとめて買うと申し出た。ネットフリックスの提示は 1 株 $27.75 で、そこから上げなかった。
差は 1 株あたり $3.25。この差を追わなかったことで、ネットフリックスには契約解除の対価 $2.8B が現金で入った。
私たちは作る側であって、買う側ではない
サランドスは決算説明でこう言い直している。値段が会社にとっての価値を超えた時点で、感情と面子を脇に置いて降りることができた、と。
ビデオ店の棚が、この人の大学だった
1964 年生まれ。アリゾナ州フェニックスで、電気技師の父と 4 人のきょうだいに囲まれて育った。
地元のコミュニティカレッジは 2 年で離れている。学位はない。代わりに、近所のビデオレンタル店で働き始めた。
1983 年から 5 年間、アリゾナのレンタルチェーンで 8 店舗を任された。どの棚のどの作品が、どんな客に借りられていくかを毎日見ていた。
1988 年には卸売り会社へ移り、西部地区の販売責任者になる。ビデオテープから DVD への切り替えで、売り切りではなく分け前を取る契約をまとめた。
その手腕を書いた記事を読んだリード・ヘイスティングスが、2000 年に彼を呼んだ。当時のネットフリックスは、DVD を郵便で貸し出す小さな会社だった。
- 1964アリゾナ州フェニックスで育つ
- 1983レンタルチェーンで 8 店舗を任される
- 1988卸売り会社で西部地区の販売責任者に
- 2000ネットフリックス入社、作品の調達を任される
- 2011ハウス・オブ・カードを試作なしで発注$100M・2 シーズンをまとめて
- 2012初のオリジナル作品リリーハンマーを配信
- 2016ストレンジャー・シングスが世界的な当たりに
- 2020共同 CEO に就任
- 2021イカゲームが 4 週間で 16.5 億時間の視聴を集める
- 2023ヘイスティングスが退き、ピーターズとの 2 人体制へ
- 2025作品への現金支出が年 $18B に
- 2026ワーナー買収から撤退、$2.8B を受け取る
- 2026モディ首相とインドでの制作支援策を発表海外へ配る戦略の延長
$100M を、試作を 1 本も撮らずに出した
2011 年、サランドスはデビッド・フィンチャー監督にこう伝えた。ハウス・オブ・カードを 2 シーズンまとめて発注する、金額は $100M、試作は不要だと。
当時のテレビの常識では、まず 1 話だけ撮り、反応を見てから続きを決める。それを飛ばした。
ヘイスティングス本人が後に、この決定は無謀の一歩手前だったと振り返っている。
根拠は視聴の記録にあった。フィンチャー監督の作品も、主演俳優の出演作も、英国版の原作も、同じ会員が繰り返し見ていた。
2021 年のイカゲームは、この配り方から出てきた。韓国の制作陣が 10 年売り込めなかった脚本で、制作費は $21M 前後と報じられている。
配信から 4 週間で 16.5 億時間見られ、当時のネットフリックス史上 1 位になった。ハウス・オブ・カードの 5 分の 1 の金額である。
作品の人が、利益率の話をするようになった
共同 CEO になってからのサランドスは、作品だけでなく会社の数字を語る立場になった。
いちばん大きかったのは、広告つきの安いプランである。ヘイスティングスが長く拒んでいた仕組みを、2022 年に入れた。
広告の売上は 2025 年に $1.5B を超え、前年の 2.5 倍になった。会社は 2026 年にこれをもう一度倍にする計画を出している。
それでも広告は、まだ売上全体の 3% 台にすぎない。柱と呼べるまでには何年かかかる。
値上げとパスワード共有の制限も重なり、営業利益率は 2024 年の 26.7% から 2025 年は 29.5% へ上がった。会社は 2026 年に 31.5% を目標に置いている。
加入者数ではなく、見られている時間を見る
株価は 2026 年に入って大きく下げた。売上は二桁で伸びているのに、見られている時間が伸びていないからだ。
配信の商売では、まず見られる時間が減り、解約は後から来る。だから視聴時間の鈍りは、売上より早く鳴る警報になる。
サランドスは、続編の視聴が落ちる度合いはむしろ改善していると説明した。市場はまだその説明を買っていない。
25 年間、この人は次に何が見られるかを当ててきた。いま問われているのは、当てた作品がどれだけ長く見られ続けるかのほうだ。
決算を読むときは、加入者数ではなく視聴時間と広告売上の 2 つを追うといい。作品の当たり外れは、遅れてこの 2 つに出る。
出典:
- Netflix Q4 2025 Shareholder Letter (2026 年 1 月 20 日) — https://s22.q4cdn.com/959853165/files/doc_financials/2025/q4/FINAL-Q4-25-Shareholder-Letter.pdf
- Warner Bros. Discovery Form 8-K (2026 年 2 月 27 日・契約解除と $2.8B の支払い), SEC — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1437107/000143710726000018/disca-20260227.htm
- Netflix Investor Relations 四半期決算資料 — https://ir.netflix.net/financials/quarterly-earnings/default.aspx
- About Netflix: Ted Sarandos and Greg Peters Are Now Co-CEOs of Netflix — https://about.netflix.com/en/news/ted-sarandos-greg-peters-co-ceos-netflix
- Variety「Ted Sarandos Meets Prime Minister Narendra Modi, Unveils Netflix India Storytelling Initiative」(2026 年 8 月) — https://variety.com/2026/tv/news/ted-sarandos-narendra-modi-netflix-india-storytelling-initiative-1236828464/





