この記事の流れ(全5章)
2024 年 8 月 13 日、スターバックスが次の経営者の名前を発表した。店も商品も何ひとつ変わっていないのに、会社の値段はその日のうちに $21B ふくらんだ。
発表だけで $21B 動いた日
前日の終値は $77.03 だった。発表の当日、株価は $95.90 で引けた。1 日の上げ幅としては 1992 年の上場以来で最大である。
同じ日、彼を失うチポトレの株は 7% 以上下がった。会社の値段にして約 $6B が消えた計算になる。
市場は経営者ひとりに、それだけの値札を付けたことになる。
当時のスターバックスは、客が減っていた。発表の直前に公表された四半期は、世界の既存店売上が前年より 3% 少ない。
原因は値段ではなく待ち時間だった。同じ四半期、来店客数は 5% 減っている。アプリからの注文が店に詰まり、行列が延びていた。
手順書はタコベルで書き、チポトレで試した
1974 年、カリフォルニア生まれ。オハイオ州のマイアミ大学で経済学を学び、シカゴ大学ブースで経営学修士を取った。
最初の職場は日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブルで、担当は営業だった。ここでブランドの育て方を覚えている。
2005 年、外食大手のヤム・ブランズへ移る。ピザハットの販売担当を経て、2011 年にタコベルの販売責任者。2013 年に社長、2015 年に最高経営責任者になった。
タコベルでやったのは、若い客に向けた売り方の作り直しである。菓子の生地でタコスの皮を作るような商品が当たり、店に人が戻った。
壊れたブランドを引き受ける
2018 年 3 月、チポトレの最高経営責任者に招かれる。3 年前の食中毒でブランドが壊れた会社だった。
2015 年、大腸菌などによる健康被害が 13 州以上に広がり、500 人を超える人が体調を崩した。株価は $750 超から $500 割れまで落ちている。
この 2 つの値段は、2024 年の株式分割より前のものだ。いまの 1 株の値段とは、そのまま比べられない。
- 1974カリフォルニア州で生まれる
- 1996マイアミ大学 (オハイオ州) で経済学を修める
- 2003シカゴ大学ブースで経営学修士P&G で営業を経験した後
- 2005ヤム・ブランズ入社、ピザハットの販売を担当
- 2011タコベルの販売責任者に
- 2015タコベルの最高経営責任者若い客の取り戻しで名を上げる
- 2018チポトレの最高経営責任者に就任食中毒でブランドが壊れた直後
- 2024チポトレを去り、スターバックスへ発表当日に株価 +24.5%
- 2025注文から 4 分で渡す目標を米国の直営店へ
- 2025中国の店舗事業を合弁に切り出すと発表
- 20261 月、投資家向けに 2028 年度目標(既存店売上 年3%以上等)を提示
- 2026既存店売上が 4 四半期続けてプラス
在任は 6 年半。売上は $4.8B から $11.3B 超へ伸び、株価の上昇率は約 800% に達した。
効いた手は 2 つある。アプリでの注文を売上のほぼ半分まで育てたこと。受け取り専用の車道 (チポトレーン) を 1,000 店以上に広げたことだ。
「4 分」という、たったひとつの約束
スターバックスで最初に掲げたのは「原点回帰」だった。社内では Back to Starbucks と呼ぶ。
特別な一杯と、人と人のつながりと、客の体験。この 3 つが毎日の勝ち負けを決める
やっていること自体は派手ではない。メニューの品目を 2〜3 割削り、店に人手を足し、作る順番を組み替えた。
そのうえで目標を数字ひとつに絞った。注文を受けてから 4 分以内に渡す。米国の直営店に共通の目安として置いている。
追加の人件費には、1 年で $500M を超える額を投じた。削って浮かせた金を、そのまま店に戻した形になる。
なぜ時間なのか。回転が上がれば 1 店あたりの売上が増え、待たされた不満も同時に減るからだ。
中国の店を、自分で持つのをやめた
いちばんの難所は中国だった。彼が来る直前の四半期、中国の既存店売上は 14% 減っていた。
現地の安いチェーンが店数で追い抜き、値下げ競争になっていた。ラッキンコーヒーがその代表である。
2025 年 11 月、彼は中国の店舗事業を合弁会社に切り出すと発表した。相手は中国の投資会社ボユー・キャピタルで、合弁は 2026 年に成立している。
手放したのは持ち分であって、稼ぎのすべてではない。看板を貸す対価は、この先も入り続ける。
この整理は決算の見え方も変えた。2026 年 4〜6 月期の売上は $9.3B で、前年より 1% 少ない。中国の店の売上が自社の数字から外れたためだ。
一方で同じ四半期、世界の既存店売上は 7.9% 増えた。来店客数が 4.2% 増えており、値上げではなく人が戻った結果である。
この立て直しには請求書がある
数字が戻る裏で、人は減っている。2025 年 2 月に本社側で 1,100 人、9 月にさらに約 900 人。北米の店舗も約 1% を閉じた。2026 年にも、店舗の企画部門を中心に本社で 200 人超を削減した。ナッシュビルへの拠点移転を受け入れなかった社員が多くを占める。
この再編にかかる費用は約 $1B と見込まれた。
現場との関係も張り詰めたままだ。労働組合スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッドは 2025 年 11 月 13 日から 131 日間のストライキに入った。
交渉は 2026 年春に再開したが、最初の労働協約はまだ結ばれていない。組合は最低時給 $17 と、1 つのシフトに 3 人という体制を求めている。ニコルは要求について「無理がある」と述べてきた。
彼自身の待遇も論点になった。就任から 4 か月で $96M 相当の報酬が計上されている。カリフォルニアの自宅から社有機でシアトルへ通う条件も契約に入った。
この先、何が試されるか
ニコル自身が示した目安もある。2028 年度までに、既存店売上を世界・米国とも年 3% 以上、売上全体を年 5% 以上伸ばし、1 株利益を $3.35〜$4 に乗せるという数値目標だ。
この株を見るなら、追う数字は既存店売上でよい。ここが鈍った時に、削った経費と増やした人件費のどちらが先に効くかが表に出る。
もうひとつは中国だ。持ち分を 40% に落とした事業から、看板の使用料がどれだけ返ってくるか。
ニコルは 3 社で同じ手順書を使ってきた。4 社目で通じなければ、疑われるのは彼ではなく手順書のほうになる。
出典:
- Starbucks「Q3 Fiscal Year 2026 Results」 — https://investor.starbucks.com/news/financial-releases/news-details/2026/Starbucks-Reports-Q3-Fiscal-Year-2026-Results/default.aspx
- Starbucks Corp. Form 8-K (2024/08/13, ニコル指名), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/829224/000119312524200724/d848513dex991.htm
- Starbucks「Starbucks and Boyu Announce Joint Venture for the Next Chapter of Growth in China」 — https://about.starbucks.com/press/2025/starbucks-and-boyu-announce-joint-venture-for-the-next-chapter-of-growth-in-china/
- Chipotle Newsroom「Chipotle Names Brian Niccol Chief Executive Officer」 — https://newsroom.chipotle.com/2018-02-13-chipotle-names-brian-niccol-chief-executive-officer
- Starbucks「Starbucks Is Back, Turning Momentum Into Long-Term, Sustainable Growth」(2026年度投資家向け説明会) — https://investor.starbucks.com/news/financial-releases/news-details/2026/Starbucks-Is-Back-Turning-Momentum-Into-Long-Term-Sustainable-Growth/default.aspx
- Starbucks lays off over 200 corporate workers as part of Brian Niccol's turnaround strategy, Fox Business — https://www.foxbusiness.com/markets/starbucks-lays-off-over-200-corporate-workers-brian-niccols-turnaround-strategy-moves-forward





