2024 年 8 月、Starbucks は CEO ラックスマン・ナラシムハンを解任。後任に指名されたのが、Chipotle を 6 年で復活させた ブライアン・ニコルだった。
レストランは早さでも安さでもなく、「いいものを安心して食べる経験」で勝つ
Starbucks の発表に市場は 株価 24% 上昇で反応。米国レストラン業界で最も信頼される再建者として、ニコルは Howard Schultz(創業者)が「自分の再来」と呼ぶ救世主として迎えられた。Starbucks に来てから 2 年で株価は再上昇、回復ロードマップを着実に進めている。
P&G 営業から外食産業の主要 CEO へ
1974 年、カリフォルニアで生まれる。父は地元のビジネスマン、母は教育者。マイアミ大学(オハイオ州)で経済学、シカゴ大学ブースで MBA。1995 年に Procter & Gamble(P&G)に営業として入社、ブランド管理の基礎を学ぶ。
2005 年、Yum! Brands(KFC、Pizza Hut、Taco Bell の親会社)に転身。Pizza Hut のチーフマーケティングオフィサーを経て、Taco Bell の社長 → CEO。Taco Bell では 「Live Más」キャンペーンで若年層を取り戻し、メニュー革新(Doritos Locos Tacos)で売上を急回復させた。5 年で Taco Bell の同店売上を 25% 増に。
2018 年 3 月、Chipotle Mexican Grill の CEO に。当時の Chipotle は 2015 年の E.coli(大腸菌)汚染事件でブランドが崩壊、株価はピークから 75% 下落。多くの専門家が「再生不能」と言った会社だった。
Chipotle 再建のレシピを Starbucks に応用
ニコルの Chipotle 再建(2018〜2024) の成功要因は 4 つ:
- デジタル注文の主軸化: Chipotle アプリの再構築、ロイヤルティ・プログラム、配送パートナーシップ。デジタル注文比率を 10% → 50% 超へ
- メニュー革新: Carne Asada、Brisket、Cilantro-lime Cauliflower Rice などの新メニュー。新規顧客の獲得
- 店舗オペレーションの簡素化: 「Chipotlane」(ドライブスルー専用設計)の積極展開、店舗運営の効率化
- 食品安全の文化変革: 全社員への食品安全教育の徹底、サプライチェーン監視の強化
これと同じレシピを Starbucks に持ち込んでいる。「Back to Starbucks」計画として 2024 年 9 月に発表:
- モバイル注文の見直し: 過剰なカスタマイズと混雑解消、店舗体験を優先
- メニューの簡素化: 約 30% のメニュー削減、定番回帰
- 店舗体験の刷新: 座席を増やし、店内陶器マグでの飲食を奨励、「サードプレイス」感の回復
- バリスタの増員: 人手不足の解消、サービス品質改善
これに対し、Starbucks の中国市場縮小と米国の若年層離れという構造課題もあり、Chipotle 時代より難易度は高い。
「マーケター + オペレーター」の二刀流
ニコルのスタイルは 「マーケティングとオペレーションの両方が分かる」点で稀有。P&G で身につけた ブランド構築、Taco Bell で身につけた 若年層マーケティング、Chipotle で身につけた 店舗オペレーション再構築。3 つを組み合わせて経営判断を下す。
ブランドは広告で作らない。店で毎日体験する小さな満足の積み重ねで作る
社員管理は 「現場主義 + 数字主義」。Chipotle 時代に 毎週店舗を訪問、バリスタやライン担当と直接話す習慣を続けていた。Starbucks でも同じ。「社員の幸せが顧客の幸せ」を繰り返し、社員賃金・福利厚生の改善を進めている。
報酬問題も話題に。Starbucks 着任時のサインオン・ボーナス + 株式報酬で $113M(米国最大級の入社契約)。Starbucks の本社移転を要求せず、カリフォルニアの自宅から週 3 日リモート出張という条件も含まれた。「個人の働き方を尊重する CEO 契約」として業界で話題になった。
中国市場、組合化、賃金圧力
Starbucks の最大の課題は 中国市場。Luckin Coffee、Cotti Coffee などの中国系コーヒーチェーンが 店舗数で Starbucks を上回り、価格競争で Starbucks の中国売上を圧迫。中国部門を「分離・パートナーシップ化」する選択肢が議論されている。
第二のリスクは 米国の組合化。Starbucks Workers United が 2022 年以降、米国 500 店舗以上で組合結成に成功。ニコルは前任ナラシムハンよりも対話姿勢で、2025 年に 包括的な賃金協定で組合との合意を模索中。賃金圧力は今後数年で コスト構造を変える可能性が高い。
第三のリスクは 賃金圧力 + 物価高。米国の最低賃金引き上げ、食材コスト高、不動産コスト高で 店舗あたり利益率が縮小。Starbucks の伝統的な「プレミアム価格 + 高利益率」モデルが疲弊しつつある。
そして ハワード・シュルツとの関係。創業者シュルツは依然として大株主として Starbucks に強い影響力を持ち、「Starbucks のあるべき姿」を頻繁にインタビューで語る。ニコルはシュルツの「サードプレイス」哲学を尊重しつつ、自分のオペレーション主導の経営を維持するバランスを取り続けている。
読み終わりに
ニコルの面白さは、「米国レストラン業界で最も信頼される再建者」という評価を、Pizza Hut、Taco Bell、Chipotle、そして Starbucks と 4 社にわたって積み上げてきた点にある。「ブランド作りの天才 + オペレーター」という稀有な二刀流が、外食業界で最も難しい仕事を任される理由だ。
Starbucks の株を見るときは、四半期売上より 米国既存店売上の成長率と 中国部門の戦略決定(独立 / 分離 / 撤退)を読むと、見え方が変わる。ニコルが残す最後の作品が 「Back to Starbucks 計画の成功例」として記憶されるのか、それとも 「中国失敗 + 賃金圧力で苦しむ Starbucks」の延命戦なのか — そこに次の 3 年が見える。





