この記事の流れ(全6章)
アマゾンでいちばん利益を稼ぐのは、通販ではない。クラウドである。その事業を社内から立ち上げた本人が、いま会社全体を率いている。
アンディ・ジャシーが最高経営責任者になったのは 2021 年 7 月。創業者ジェフ・ベゾスからの交代だった。
引き継いだアマゾンの稼ぎ方は、外から見た印象とかなり違う。
通販は売上の大半を運ぶが、利益はほとんど残らない。会社の利益をつくっているのは、ジャシー自身が育てたクラウドの側である。
経験を圧縮するアルゴリズムは存在しない
社内の困りごとを、売り物に変えた
1997 年、経営学修士を終えてすぐアマゾンに入った。上場したばかりの、本を売る通販会社である。
入社から数年後、ベゾスの補佐役に就く。社内で「影」と呼ばれた役だ。会議に同席し、経営の判断をそばで見続けた。
そこで何度も耳にしたのが、技術者の不満だった。新しい事業を始めるたび、コンピューターを用意するだけで数か月が消えていた。
2003 年、ベゾスとの議論で構想が固まる。同じ不満を抱える会社は、社外にいくらでもいる。
2006 年に提供が始まった。他社の設備を自社のもののように借りる仕組み、いわゆるクラウドである。名前は AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)といった。
データの保管も計算も、クレジットカード 1 枚で、使いたい分だけ借りられる。同じことを同じ規模でできる相手は、当時ほとんどいなかった。
余った設備を貸したわけではない
通販で余った設備を貸し出したのが始まりだ、という説明をよく見る。ジャシー本人はこれを否定している。最初から外の客に売るつもりで作った、というのが本人の説明だ。
- 1968ニューヨーク州スカースデールで生まれる
- 1990ハーバード大学を卒業
- 1997経営学修士を終えてアマゾン入社(29 歳)
- 2003ベゾスとの議論でクラウド事業の構想が固まる
- 2006AWS の提供を開始
- 2016AWS の最高経営責任者に
- 2021アマゾンの最高経営責任者に就任(7 月)ベゾスは会長へ
- 2022通期で最終赤字。2014 年以来
- 20232 万 7 千人を削減
- 202510 月に 1 万 4 千人を削減
- 20261 月にさらに 1 万 6 千人。設備投資は当初 $200B 規模の計画
- 20267 月末、設備投資計画を $220B へ上方修正、AWS は $1T 超を視野に
就任の翌年、会社は赤字に落ちた
引き継いだ直後の数字は、ひどいものだった。
コロナ禍の需要に合わせて、倉庫も人も増やしすぎていた。需要が落ち着くと、設備と人件費だけが残った。
2022 年は通期で最終赤字である。年間で赤字を出したのは 2014 年以来だった。
ジャシーは 2023 年に 2 万 7 千人を減らし、費用の膨らんだ事業を次々に畳んだ。
戻したのは削減だけではない。クラウドの利益が伸び続け、通販側も配送の組み方を変えて費用を下げた。
3 万人を減らした理由を、費用ではないと言った
2024 年 9 月、ジャシーは 2 つのことを社内に通知した。
1 つは、2025 年 1 月から週 5 日の出社に戻すこと。もう 1 つは、管理職を減らすことだった。
管理職に対する現場担当者の比率を 15% 以上引き上げる、という数値目標まで置いている。決裁の層を薄くすれば判断が速くなる、という理屈だ。
削減はそこから続く。2025 年 10 月に 1 万 4 千人、2026 年 1 月にさらに 1 万 6 千人。合わせて 3 万人で、社史上最大である。
理由の説明が独特だった。決算の電話会議で、財務のためでも人工知能のためでもないと言い切っている。
財務のためではないし、いまのところ人工知能のためでもない。これは文化の問題だ
会社が大きくなり、層が増え、動きが遅くなった。理由はその一点だという。
ただし同じ年の 6 月、人工知能を広く使えば社内の人数は減るはずだと社員に書いてもいる。2 つの説明は、きれいにはかみ合わない。
報道では、残った社員の士気の低下が繰り返し伝えられている。ここは彼の経営で最も評価が割れる場所だ。
稼いだ利益を、その場で設備に変えている
削る一方で、ジャシーは歴史的な規模の投資に踏み込んでいる。
2024 年の設備投資は約 $83B、2025 年は約 $131B。2026 年の計画は、メモリー価格の上昇を理由に $200B から約 $220B へ 7 月末に引き上げられた。
行き先はデータセンターと電力、それに自社で設計した半導体である。人工知能の学習に使う半導体はトライニアムと呼ばれる。
投資してもなお足りない、というのがジャシーの説明だ。2026 年 8 月には、AWS の年間売上がいずれ $1T を超えるとの見立てを決算会見で示した。直近の年換算売上は $169B で、その規模まではまだ距離がある。
主な相手も決まっている。人工知能の開発会社アンソロピックに、アマゾンは 2024 年までに $8B を出資した。
2026 年 4 月にはさらに $5B を出し、条件を満たせば最大 $20B を追加すると発表した。相手は 10 年で $100B 超を AWS に払うと約束している。
出したお金が、客としての支払いで戻ってくる。この循環をどう見るかで、投資家の評価は分かれる。
数字そのものは強い。2026 年 4〜6 月期の AWS は前年同期比 37% 増の $42.2B で、18 四半期ぶりの伸びだった。
この経営を疑うなら、どこを疑うか
第一に、賭けの大きさ。年 $220B は会社の営業利益の 2 倍を優に超える。
設備は使われなくても、費用として毎年少しずつ落ちていく。需要の読みが外れれば、その分だけ利益が削られる。
第二に、利益の見かけ。2026 年 4〜6 月期の純利益 $62.6B のうち、$53.4B は本業の外で出た評価益だった。
多くはアンソロピックへの出資分の値上がりで、現金が入ったわけではない。この利益は相場が反転すれば逆にも振れる。
第三に、通販側の薄さ。2025 年の営業利益は北米が $29.6B、海外が $4.7B。2 つ足しても AWS 1 本の $45.6B に届かない。
この 5 年は、誰の判断だったか
ベゾスは今も会長の席にいる。それでもこの 5 年の決定は、もう創業者の遺産では説明できない。
3 万人を減らす判断も、年 $220B を投じる判断も、ジャシーの名前で出ている。
削る人と積む人が同じ一人であること。それがこの経営者の強みであり、同時にいちばんの危うさでもある。
答え合わせが始まるのは、いま建てている設備の費用が本格的に効いてくる年からだ。
出典:
- Amazon.com 2025 年第 4 四半期および通期決算発表(Amazon) — https://www.aboutamazon.com/news/company-news/amazon-earnings-q4-2025-report
- Amazon.com 2026 年第 2 四半期決算発表(Amazon) — https://www.aboutamazon.com/news/company-news/amazon-earnings-q2-2026-report
- アンソロピックへの追加出資の発表(Amazon) — https://www.aboutamazon.com/news/company-news/amazon-invests-additional-5-billion-anthropic-ai
- 出社と管理職の比率に関する社内通知(Amazon) — https://www.aboutamazon.com/news/company-news/ceo-andy-jassy-latest-update-on-amazon-return-to-office-manager-team-ratio
- 2026 年 1 月の追加削減と累計 3 万人の報道(CNBC) — https://www.cnbc.com/2026/01/28/amazon-layoffs-anti-bureaucracy-ai.html
- 2026 年の設備投資計画についての報道(CNBC) — https://www.cnbc.com/2026/02/05/why-amazons-ceo-is-confident-with-200-billion-spending-plan.html
- Andy Jassy Believes AWS Can Hit $1 Trillion in Revenue(The Motley Fool、2026 年 8 月 25 日) — https://www.fool.com/investing/2026/08/25/andy-jassy-believes-aws-can-hit-1-trillion-in-reve/
- Andy Jassy said Amazon will spend $220 billion this year(Fortune、2026 年 7 月 30 日) — https://fortune.com/2026/07/30/andy-jassy-amazon-capex-demand-aws-pga-tour/




