この記事の流れ(全5章)
新しい半導体が世に出た日に、それを箱へ収めて世界でいちばん早く客へ届ける。スーパーマイクロが 33 年やってきたのは、その一点だけである。
通期の売上は 2 年で $15.0B から $39.1B になった。2.6 倍である。それでも株価は、この 1 年の高値の 3 分の 2 にとどまる。
売る量は増えたのに、稼ぐ力への評価は下がった。この落差が、創業者チャールズ・リャンの経営を説明している。
速さだけを売る商売
サーバーとは、計算を引き受ける半導体を箱に収め、電源と冷やす仕組みをつけたものだ。人工知能の計算をまとめて担う半導体はエヌビディアが作る。
スーパーマイクロが作るのは、その周りの箱である。だから商品そのもので差はつきにくい。デルも同じ半導体を積む。
リャンが選んだ差は納期だった。新しい半導体の設計指針が公開された瞬間から組み始め、他社より先に客の機械室へ運び込む。
支えているのは積み木のような作り方だ。電源も冷却も基板も共通の部品にしておき、新しい半導体が来たら差し替えるだけで済ませる。
早さは、そのままの値段では売れなかった。急いだ分を価格に乗せられていないことが、決算にはっきり出ている。
会社は今期の売上を $65B〜$72B と見込む。届けばまた 1.8 倍になる。
直近の 4〜6 月期だけを見ると、粗利率は 17.6% まで戻った。客層と製品の組み合わせが良くなった結果だとリャンは説明している。
ただし通期でならすとまだ 10.8% にとどまる。薄い利幅で量を追う商売は、注文が止まった瞬間に在庫がそのまま損に変わる。
半田ごてから始めて、まだ売り場にいる
台湾に生まれ、国立台湾科技大学で電気工学を学んだ。渡米してテキサス大学アーリントン校で修士を修める。
1993 年、妻のサラ・リューとカリフォルニア州サンノゼで創業した。5 人で始めた会社だった。
最初の商品は基板である。自分で試作機を組み、自分で売り先を探した。この順序をリャンは今も変えていない。
この 1 年で $60B を超える新規受注を得て、過去最高の受注残を抱えたまま新しい年度に入った
株式を公開したのは 2007 年。公開価格は 1 株 $8 で、当初の想定を下回る値づけだった。
そこから十数年は地味な組立屋である。人工知能への投資が始まって、会社は初めて主役側に回った。
- 1993妻サラ・リューとサンノゼで創業5 人の会社だった
- 2007ナスダックに新規上場公開価格は 1 株 $8
- 2024人工知能向けサーバーの需要で通期売上 $15.0B
- 2024.08空売り業者が会計と身内取引を問題視する報告書を公表
- 2024.10監査法人アーンスト・アンド・ヤングが辞任
- 2024.11後任の監査法人にビーディーオーを選ぶ
- 2025.02遅れていた年次報告書を提出し、上場基準に復帰過去の決算の作り直しは無し
- 2026.03共同創業者が輸出規制違反で起訴され、取締役を退任
- 2026.08取締役会の独立調査、リャンの関与は認められずと結論
- 2026.08通期売上 $39.1B、今期は $65B〜$72B の計画
監査法人に去られた半年
2024 年 8 月、ある空売り業者が報告書を公表した。会計処理と、親族が経営する取引先との関係を問題にした内容である。
10 月には監査法人のアーンスト・アンド・ヤングが辞任した。経営陣が作る財務諸表に名前を連ねたくない、という趣旨の理由だった。
会社は社外の弁護士と会計調査の会社に調べさせ、辞任理由は事実に裏づけられていないと結論づけた。
翌年 2 月、遅れていた年次報告書をまとめて提出し、上場基準に戻る。過去の決算の作り直しは起きていない。
ここは分けて読む必要がある。調査で「不正が認定された」わけではない、という事実だ。
それでも指摘の一部は残った。部品の調達先には、リャンの兄弟が経営する台湾の会社が含まれる。この取引は会社自身が年次報告書に書いている。
共同創業者が起訴された日
2026 年 3 月、米国の検察が共同創業者のワリー・リャオを起訴した。エヌビディアの半導体を積んだサーバーを、輸出規制に反して中国へ流した容疑である。
リャオは翌日に取締役を退き、4 月の罪状認否では無罪を主張した。会社は被告に含まれていない。
会社側は、指摘された行為は自社の方針と統制に反すると表明している。
株価はこの日 3 割超下げた。売上が過去最高を更新している最中の出来事だった。
投資家がその日に値づけしたのは、業績ではなく統治のほうである。
社外取締役による独自調査は 2026 年 8 月にまとまった。リャン自身が事件を知っていたと示す証拠はない、という結論である。
ただしリャオの裁判はまだ終わっていない。開始時期は 2026 年 11 月から 2027 年 3 月へ延び、会社への影響は当面続く。
受注残は厚い。信用はまだ薄い
リャンが 33 年言い続けてきたのは、速く作れ、もっと作れ、の一点だ。号令そのものは今も効いている。
問題は、その速さが長く値引きとしか交換できていなかったことである。直近の四半期でようやく粗利率が戻り始めたが、まだ 1 期だけの動きだ。
統治の話になると、この会社には必ず創業以来の人間関係が出てくる。親族の取引先、共同創業者の起訴と続く裁判、去った監査法人。取締役会は今年 8 月にリャンの関与を否定したが、事件そのものはまだ終わっていない。
スーパーマイクロの決算を読むなら、売上の行より粗利率の行を先に見るとよい。速さが値段に変わり続けるかどうかは、そこにしか出ない。
もう一行ある。年次報告書の関連当事者取引の注記だ。リャンが家業を会社に変えられたのかは、その注記が薄くなるかどうかで分かる。
出典:
- Supermicro「Supermicro Announces Fourth Quarter and Full Fiscal Year 2026 Financial Results」 — https://ir.supermicro.com/news/news-details/2026/Supermicro-Announces-Fourth-Quarter-and-Full-Fiscal-Year-2026-Financial-Results/default.aspx
- Super Micro Computer, Inc. Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1375365/000137536525000027/smci-20250630.htm
- Supermicro「Super Micro Computer, Inc. is in Compliance with the Nasdaq Filing Requirements」(2025-02-26) — https://ir.supermicro.com/news/news-details/2025/Super-Micro-Computer-Inc.-is-in-Compliance-with-the-Nasdaq-Filing-Requirements/default.aspx
- CNBC「Super Micro co-founder indicted on Nvidia smuggling charges leaves board」(2026-03-20) — https://www.cnbc.com/2026/03/20/super-micro-co-founder-leaves-board.html
- Fortune「Supermicro investigation clears CEO in $2.5 billion alleged smuggling scheme」(2026-08-20) — https://fortune.com/2026/08/20/supermicro-investigation-ceo-nvidia-smuggling/





