この記事の流れ(全5章)
スンダー・ピチャイは、会社でいちばん儲かっている場所に自分から手を入れた。検索の答えの上に、人工知能が書いた要約を置いたのだ。クリックで稼ぐ会社が、そのクリックを減らしかねない一手だった。
それでも数字は伸びている。2026 年 4〜6 月期の売上は $119.8B、前年同期より 24% 多い。検索結果に載る AI の要約も、2026 年 8 月時点で月 25 億人が目にしている。
人工知能は、人類が取り組んでいる最も重要なものの一つだ。火や電気より奥深いかもしれない
電話のない家から、入口を押さえる仕事へ
1972 年、インド南部タミルナードゥ州の中流家庭に生まれた。父は電気技師、母は速記者。家に初めて電話が来たのは、彼が 12 歳のときである。
技術が行き渡っていない場所の感覚を、体で覚えている。後年の判断の多くは、そこから説明がつく。
インド工科大学カラグプル校で金属工学を修め、奨学金でスタンフォード大学へ渡った。ペンシルベニア大学ウォートン校で経営学の修士も取っている。
アプライド・マテリアルズとマッキンゼーを経て、2004 年にグーグルへ入社した。
最初の担当はツールバーだった。ブラウザの上端に検索窓を埋め込む、まったく目立たない仕事である。
ここで彼は一つの構造に気づく。検索そのものより、検索に入る入口を誰が押さえるかで勝負が決まる、ということだ。
だから自社でブラウザを作らせてほしいと社内を説得した。2008 年に出たクロームである。
読みは当たった。クロームは世界でいちばん使われるブラウザになり、検索の入口は自前になった。
2013 年にはアンドロイドを引き継ぎ、スマホ側の入口も見るようになる。2015 年 8 月、43 歳でグーグルの最高経営責任者に指名された。
- 1972インド・タミルナードゥ州で生まれる
- 1993インド工科大学カラグプル校で金属工学を修める
- 1995スタンフォード大学で材料科学の修士
- 2004グーグル入社、ツールバー担当
- 2008クロームを公開、検索の入口を自前で確保
- 2013アンドロイド部門を引き継ぐ
- 2015グーグルの最高経営責任者に就任(43 歳)
- 2019アルファベットの最高経営責任者に就任創業者から引き継ぐ
- 2023英ディープマインドとグーグル・ブレインを一つに統合
- 2024検索結果の最上部に AI の要約を置く形へ
- 2026アップルが新しい Siri の頭脳にジェミニを採用
- 2026設備投資の計画が $200B 規模に
この会社は、どこでお金を得ているのか
判断の重さを測るには、まず稼ぎの地図がいる。
広告が 7 割弱を占める。検索結果の脇に出る枠、ユーチューブの動画広告、他社サイトへ配る枠の合計だ。
二番手のクラウドは、企業に計算機と人工知能の道具を貸す商売である。四半期の売上は $24.8B、前年同期から 82% 増えた。
この事業は長く赤字だった。2018 年にオラクルの幹部だったトーマス・クリアンを招き、企業向けの営業を立て直している。
初めて四半期で黒字になったのは 2023 年。赤字部門を 5 年かけて第三の柱にしたのが、ピチャイの実務面での代表作である。未消化の契約残高は 2026 年 6 月末で $514B、設備投資の計画額を上回る規模まで積み上がった。
残りは定期課金と端末だ。動画や保存容量の月額と、スマホの販売がここに入る。
大事なのは 3 番目である。広告主に請求が立つのは、利用者がクリックした瞬間だ。
検索の最上部で人工知能が答えを書いてしまえば、その先へ進む理由は減る。売上の 7 割に触る話になる。
稼ぎ頭に、自分で手を入れた
2022 年末、対話型の人工知能サービスであるチャット GPT が広まった。作ったのはオープン AI、資金を出したのはマイクロソフトである。
検索が置き換わるという見立てが市場に走った。守る道もあった。検索はそのまま残し、人工知能は別の商品として売る道である。
ピチャイは逆を選ぶ。2024 年、検索結果のいちばん上に人工知能が書いた要約を置く形へ作り替えた。
研究の体制は先に整えてあった。2023 年、英ディープマインドとグーグル・ブレインを一つにまとめ、モデル開発を一本の線に束ねている。
結果は数字に出た。ジェミニという人工知能サービスは、月に 9.5 億人が使う規模になった。
検索の売上も減っていない。2026 年 4〜6 月期の検索関連は $63.3B で、前年同期より 17% 多い。
会社は、人工知能の機能そのものが検索の利用回数を押し上げていると説明している。
人工知能への投資が、事業のあらゆる場所でできることを塗り替えている
外からの評価も変わった。2026 年 1 月、アップルは音声助手 Siri の頭脳にジェミニを使うと発表した。
自前主義で知られる会社が、中核の機能を他社の模型に預けた。年 $1B 規模の契約と報じられている。
一方で法廷は続いている。2024 年 8 月、米国の裁判所はグーグルの検索が独占にあたると認めた。
2025 年 9 月の是正判断では、クロームの売却は退けられた。代わりに独占的な既定契約の禁止と、検索データの開放が命じられている。
11 年目に、財布の使い方が変わった
いま起きている変化は、製品より決算書に出ている。
2026 年 4〜6 月期だけで $44.9B を設備に使った。前年同期のちょうど 2 倍である。
資金の出どころも変わった。前年同期に $13.2B 実施していた自社株買いが、この四半期はゼロになっている。
代わりに普通株で約 $30.5B、優先株で約 $19.1B を調達した。現金を配る側だった会社が、集めて建てる側へ回ったということだ。
読む側が気をつけたい数字もある。この四半期の最終利益 $112.2B は前年の 4 倍だが、うち $99.0B は保有株式の評価益である。
本業の稼ぎを見たいなら、営業利益の $40.8B のほうを見る。
危うさはここに集まっている。建てた計算機がクラウドの売上に変わらなければ、増えた株数と償却費だけが残る。
独占の是正命令がどう効くかも、まだ数字には現れていない。ピチャイは 「自分で壊す」側の賭けを、今度は財務でやっている。
3 つの数字で追う
ピチャイは発明家として語られない。彼がやったのは、入口を押さえ、稼ぎ頭に手を入れ、いま会社の財布ごと賭けに回すことだった。
だからこの会社を追うなら、四半期の広告売上の上下より、次の 3 つを見るほうが早い。
- クラウドの売上が、設備投資に見合う速さで伸びているか
- 検索関連の売上が、二桁の伸びを保てているか
- 自社株買いが戻るか、それとも株数が増え続けるか
3 つとも、彼自身が作った問いである。答えが出るのは、おそらく次の 2〜3 年だ。
出典:
- Alphabet Announces Second Quarter 2026 Results(2026 年 7 月 22 日) — https://s206.q4cdn.com/479360582/files/doc_financials/2026/q2/2026q2-alphabet-earnings-release.pdf
- Alphabet Inc. の提出書類(Form 10-K)、米国証券取引委員会 — https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001652044&type=10-K
- CNBC「Google stock jumps as judge rules it can keep Chrome in antitrust case」(2025 年 9 月 2 日) — https://www.cnbc.com/2025/09/02/google-antitrust-search-ruling.html
- CNBC「Google hikes 2026 spending forecast to as much as $205 billion」(2026 年 7 月 22 日) — https://www.cnbc.com/2026/07/22/google-earnings-q2-goog-live-updates.html
- The Motley Fool「Sundar Pichai Raised Alphabet's Capex Guidance to $205 Billion the Same Quarter Google Cloud's Backlog Hit $514 Billion」(2026 年 8 月 16 日) — https://www.fool.com/investing/2026/08/16/sundar-pichai-raised-alphabets-capex-guidance-to-2/
- The Motley Fool「Sundar Pichai Says Alphabet's AI Products Now Reach Over 2.5 Billion Monthly Users Through AI Overviews」(2026 年 8 月 25 日) — https://www.fool.com/investing/2026/08/25/sundar-pichai-says-alphabets-ai-products-now-reach/




