この記事の流れ(全5章)
止められる人がいない。マーク・ザッカーバーグという経営者は、この一点から読むと分かりやすい。
彼が持つメタの株は、全体の1割台にすぎない。それでも株主総会の議決権は、およそ6割を握る。
普通の会社なら、大きな損を出した経営者は株主に止められる。この会社では止まらない。
その構造が、22年の在任で二度の大きな賭けを可能にした。一度目はメタバース、二度目は人工知能である。
賛成が要らない会社
メタの株は2種類ある。誰でも買えるA株は1株1票、創業者側が持つB株は1株10票である。
ザッカーバーグはこのB株をほぼ独り占めしている。出したお金は1割台でも、票の6割が彼の手にある。
これは投資家にとって両刃だ。長い目の投資を貫ける代わりに、外れた判断を外から正す手立てがない。
以下の物語は、その力を彼が何に使ってきたかの記録である。
歯科医の息子と、寮の一室
1984年、米国ニューヨーク州ホワイトプレーンズ生まれ。父は歯科医、母は精神科医だった。
子供の頃から計算機の仕組みに夢中で、12歳のときに父の医院用の連絡ツールを自作している。
2002年にハーバード大学へ進み、心理学と計算機科学を並行して学んだ。
2004年2月、寮の部屋で交流サイト「TheFacebook」を公開する。19歳だった。翌年に大学を辞め、西海岸へ移る。
速く動いて、壊せ
この言葉は当時の社内の標語になった。完璧を待たずに出し、走りながら直す。その姿勢が急拡大を支えた。
同じ姿勢は買い物にも出た。伸びる前の会社を、まだ安いうちに丸ごと買う。インスタグラムとワッツアップがその代表例である。
- 1984ニューヨーク州ホワイトプレーンズで生まれる
- 2002ハーバード大学へ進学
- 2004寮の部屋で TheFacebook を公開(19 歳)
- 2005大学を中退し、西海岸で本格運営へ
- 2012株式を公開、インスタグラムを $1B で買収
- 2014ワッツアップを $19B、オキュラスを $2B で買収
- 2018個人データの流出問題で米議会に呼ばれる
- 2021社名をメタに変更、仮想空間に賭けると宣言
- 2023「効率の年」と称し、2 年で約 2 万 1 千人を削減
- 2025スケール AI に $14.3B を出資、超知能研究所を新設
- 2026自社モデル「ミューズ・スパーク」公開、設備投資は最大 $135B 計画
- 2026「万人のための超知能」を掲げた書簡を公開 (8 月)。同日、小型モデルは重みごと無償公開
一度目の賭けは、社名まで変えた
2021年10月、会社の名前をフェイスブックからメタへ変えた。次の主戦場は仮想空間だと宣言したのである。
仮想空間の部門(リアリティラブズ)には、頭にかぶる端末と、その中の世界を作る仕事が集まる。
結果は苦しい。2025年の通期だけで、この部門の営業損失は $19.2B に達した。2020年からの累計では $80B を超える。
売る側の数字はまだ小さい。同じ年にこの部門が売り上げた額は $2.2B で、損失の8分の1にも届かない。
一方で本体は稼ぎ続けた。フェイスブック、インスタグラム、ワッツアップを束ねたアプリ群の営業利益は $102.5B である。
ここが投資家の見どころだ。賭けの元手は、広告という一本の柱から出ている。
2025年の売上 $201.0B のうち、広告は $196.2B。全体の97.6%を占める。
市場はこの賭けを一度罰した。2022年の1年間で、株価は6割以上下がっている。
それでも路線は変わらなかった。変えさせる票が、社外になかったからである。
二度目の賭けで、配るのをやめた
2023年から軸足が動く。対話型の人工知能で先を越され、ザッカーバーグは意外な道を選んだ。
人工知能の中身(モデル)を無償で配る道である。「ラマ(Llama)」と名付け、誰でも使える形にした。
オープンソースの人工知能こそが、進むべき道だ
狙いは明快だった。土台を広く握ってしまえば、他社の閉じた仕組みに囲い込まれずに済む。
ところが2025年に方針が動く。人工知能の教材を作る会社スケールAIへ $14.3B を出資し、その創業者を招いて新しい研究所を置いた。
2026年4月に出した自社モデル「ミューズ・スパーク」は、中身を公開していない。「配って広げる」から「抱えて競う」への方向転換である。
ただし配る道を完全に閉じたわけではない。2026年8月、超知能は一部の企業や政府に独占させず誰の手にも届けるべきだ、と説く書簡を公開した。同じ日、小型のモデルは重みごと無償で出している。看板の大型モデルは抱え、足元の小型モデルは配る。二段構えという説明である。
そして賭け金が跳ね上がった。設備投資は2025年に $72B。2026年は最大 $135B を計画している。
一度目の賭けと違い、今度は本業の広告に直結する。人工知能が広告の当たり具合を上げれば、投資はその日から回収に向かう。
ただし外れたときの穴も、前より深い。金額の桁が上がったぶんだけ、戻すのに時間がかかる。
この人の通信簿は、どこに出るか
ザッカーバーグの強みは、賭けを何年でも続けられることだ。そして同じ性質が、いちばんの弱点でもある。
止める仕組みがないので、外れた賭けは彼が自分で降りるまで終わらない。仮想空間の6年がその実例である。
だからメタの株を見るとき、広告売上の伸びだけを追っても足りない。
見るべきは3つある。設備投資が利益をどれだけ削っているか。人工知能が広告の成果を実際に押し上げているか。仮想空間部門の赤字が縮み始めたか。
この3つが同時に良くなった四半期が、二度目の賭けが当たったと言える最初の証拠になる。
出典:
- Meta Platforms, Inc. Form 10-K (fiscal 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026003942/meta-20251231.htm
- Meta Platforms, Inc. 2026 Proxy Statement (DEF 14A), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828026025532/meta-20260416.htm
- Meta Reports Fourth Quarter and Full Year 2025 Results — https://investor.atmeta.com/investor-news/press-release-details/2026/Meta-Reports-Fourth-Quarter-and-Full-Year-2025-Results/default.aspx
- Meta Newsroom「Introducing Muse Spark」 — https://about.fb.com/news/2026/04/introducing-muse-spark-meta-superintelligence-labs/
- Meta Newsroom「The Future is for Everyone」(2026年8月10日) — https://about.fb.com/news/2026/08/the-future-is-for-everyone/





