この記事の流れ(全6章)
エヌビディアの時価総額は $5.2T、世界一である。それでも創業者は 33 年間、社員への説明を同じ一言で始めてきた。うちは 30 日で潰れる、と。
ゲーム部品の会社が、5 年で別物になった
エヌビディアが作るのは、画面に絵を描くための半導体だ。長いあいだ、ゲームを滑らかに動かす部品として売られてきた。
この半導体には別の得意技がある。同じ形の計算を大量に並べ、一度に片づけることだ。人工知能の学習が、ちょうどその形をしている。
偶然の一致が会社を作り変えた。2021 年 1 月期まで、最大の稼ぎ頭はまだゲーム向けだった。
買い手も入れ替わっている。ゲーム好きの個人から、計算専用の巨大な施設を建てる企業へ移った。
直近の通期売上は $215.9B、うち $193.7B がデータセンター向けである。ゲームは 1 割に届かない。
ただし、この転換を慌てて決めたわけではない。20 年前に打った手が、いまごろ効いているだけだ。
皿洗いの少年が、30 歳で会社を作るまで
ファンは 1963 年、台湾の台南に生まれた。9 歳で親元を離れ、米国ケンタッキー州の寄宿学校へ送られる。
伯父が名門校だと思って選んだその学校は、実際には素行に難のある子を預かる施設だった。最初に与えられた仕事はトイレ掃除である。
高校時代はデニーズの夜勤で皿を洗った。本人はのちに、あの厨房が自分の仕事観を作ったと語っている。
大学はオレゴン州立、修士はスタンフォード。どちらも電気工学で、卒業後は半導体の設計現場に出た。
会社を作ったのは 1993 年、30 歳のときだった。仲間 2 人とデニーズの席で、その構想を固めている。
- 1963台湾・台南で生まれる
- 19729 歳で米国へ渡るケンタッキー州の寄宿学校に入る
- 1984オレゴン州立大学で電気工学を修める
- 1992スタンフォード大学で修士、半導体の設計者として働く
- 199330 歳で共同創業デニーズの席で構想を固めた
- 1996最初の設計が行き詰まり、現金が尽きかける社員の半数を手放した
- 1999株式を公開1 月 22 日、公開価格は 1 株 $12
- 2006計算用の開発道具を無償で公開売上に響くまで 10 年かかった
- 2012画像認識の競技で研究チームが圧勝深層学習の時代が始まる
- 2020通信部品メラノックスの買収を完了$6.9B・当時としては桁違いの買い物
- 2022アームの買収を撤回規制当局の反対を読んで引いた
- 2026時価総額 $5T 超え、世界一に
誰も欲しがらない道具を、10 年ただで配った
2006 年、会社は妙なものを世に出した。絵を描く専用だった半導体を、どんな計算にも使えるようにする開発の道具である(CUDA)。
歓迎する声はほとんど無かった。ゲームの客には関係がなく、企業の客はまだ生まれていない。
株式市場も冷ややかだった。売上に結びつかない開発費を毎年積むことへの批判である。
それでもファンは止めなかった。世界中の大学に社員を送り、道具の使い方を無料で教えて回らせている。
風向きが変わったのは 2012 年だ。トロント大学の研究チームが、画像認識の競技をこの半導体で制した(AlexNet)。
以来、人工知能の研究はこの道具の上で書かれるようになった。ここが堀になっている。
うちの会社は 30 日で潰れる
1996 年に現金が尽きかけた記憶が残っている。社員向けの説明は、いまもこの一言から始まるという。
面談をしない経営者
ファンは 1 対 1 の面談をしない。直属の部下は数十人いるが、誰とも個別には会わない。
指摘も評価も、全員がそろった場でそのまま伝える。個別に会えば、先に知る人と後から知る人ができてしまうからだ。
会社の形にも同じ考えが出ている。社員 42,000 人のうち 31,000 人が開発職で、営業や管理は 11,000 人しかいない。
買い物の判断は速い。データセンター内の通信を担うメラノックスを $6.9B で押さえ、いまの事業の背骨にした。
引くのも速い。半導体の設計図を売るアームを $40B で買う話は、当局の反対を読んで 2022 年に撤回した。違約金 $1.25B は捨てている。
危ういのは、名前の出ない 2 社
これは会社が自分で開示している数字である。2 社が設備投資を緩めれば、売上はそのぶん削られる。
しかもその取引先たちは、自前の半導体を作り始めている。買う側が作る側へ回る話だ。
中国向けも縮んだ。全体が 65% 伸びた年に、中国(香港を含む)向けは $25.0B から $19.7B へ減っている。ファン自身、人工知能向け半導体の中国市場は事実上ファーウェイに譲ったと語った。
2026 年 7 月には、輸出規制に触れる出荷がなかったかを米商務省が調べているとも報じられ、ファンは長官と面会した。違反の認定は出ていない。
ファン自身は 63 歳になった。後任は決まっておらず、本人は当分やめる気がないと話している。次の四半期決算は 8 月 27 日に控えている。
この人を通して数字を読むなら
ファンは発明家ではない。10 年後にしか効かない仕込みを、叱られながら続けられる人である。
だから今期の売上だけを見ても、この会社の先は読めない。見るべきは、いま何をただで配っているかのほうだ。
いまその位置にあるのは、工場や街をそのまま計算機の中に写す事業と、ロボットを動かす基盤である。どちらもまだ売上は小さい。
2012 年の再現が先に来るか、2 社の設備投資が止まるほうが先か。この会社の株価は、その順番でしばらく大きく振れる。
出典:
- NVIDIA Corporation, Form 10-K (fiscal year ended January 25, 2026), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1045810/000104581026000021/nvda-20260125.htm
- NVIDIA Announces Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal 2026 — https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-fourth-quarter-and-fiscal-2026
- NVIDIA Announces Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal 2021 — https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-fourth-quarter-and-fiscal-2021
- NVIDIA and SoftBank Group Announce Termination of NVIDIA's Acquisition of Arm Limited — https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-and-softbank-group-announce-termination-of-nvidias-acquisition-of-arm-limited
- CNBC「Nvidia says it has 'largely conceded' China's AI chip market to Huawei」(2026年5月21日) — https://www.cnbc.com/2026/05/21/nvidia-jensen-huang-china-ai-chip-market-huawei.html
- Axios「Scoop: Nvidia's Jensen Huang meets Lutnick amid China scrutiny」(2026年7月28日) — https://www.axios.com/2026/07/28/nvidia-jensen-huang-lutnick-meeting-china-ai





