この記事の流れ(全5章)
世界のAI半導体は、ほぼすべてがこの会社の工場を通る。台湾積体電路製造(TSMC)の会長兼CEO、C.C.ウェイは、73歳になったいまも会長室より工場の現場にいる時間が長いと言われる。
台湾の農村から、米国の研究所へ
1953年、台湾中部の山あいの町、南投県鹿谷に生まれる。茶どころとして知られる、半導体とは縁遠い農村地帯である。
国立交通大学(現・陽明交通大学)で電気工学を修めたのち、米国イエール大学へ渡り博士号を取った。研究テーマは、製造工程が半導体の結晶に与える微細な損傷である。
博士号取得後はテキサス・インスツルメンツの研究開発部門に入った。その後、STマイクロエレクトロニクスでロジックとメモリー技術の開発を率い、さらにチャーター・セミコンダクターで技術担当の上級副社長を務めている。
TSMCに移ったのは1998年、45歳のときだった。すでに3社を渡り歩いたベテラン技術者としての入社であり、創業から関わった人物ではない。
- 1953台湾・南投県鹿谷で生まれる
- 1987モリス・チャンがTSMCを創業台湾政府の出資で設立、56歳での起業だった
- 199845歳でTSMCに入社イエール大学で博士号を取り、米欧の半導体3社を経て
- 2013年11月共同CEOに就任
- 2018年6月単独のCEOに就任
- 20246月、董事長(会長)を兼務会長とCEOを一人が兼ねるのは創業者以来
- 2025受託生産の世界シェアが70%に迫る前年から6ポイント近い上昇
- 2026「タイム」誌の最も影響力のある100人に選出
微細化競争を率いた技術者
TSMCの強みは、他社より一世代早く微細な回路を安定して量産できることにある。ウェイはその開発を率いてきた技術系トップの一人だった。
2013年11月、共同CEOの一人として経営トップに立った。2018年6月には単独のCEOとなっている。創業家出身でも、生え抜きの若手でもない、渡り歩いてきた技術者が会社を率いる形である。
2024年6月には董事長(会長)も兼ねるようになった。会長とCEOを一人が兼ねるのは、創業者モリス・チャン以来のことだった。
この間、TSMCは最先端の微細化競争で韓国サムスンと米インテルを引き離した。アップルやエヌビディアが最新の設計を任せる先は、事実上この会社に絞られている。
ボトルネックは、もはや技術力ではない
2023年以降、TSMCの成長を牽引しているのはAI向け半導体である。エヌビディアやAMDが設計する最先端の演算装置は、ほぼすべてTSMCの工場で作られる。
2025年通期の売上は$122.42B、前年から35.9%伸びた(米ドルベース)。受託生産の世界シェアは69.9%まで上がり、2位以下を大きく引き離している。
2026年は勢いがさらに増した。上半期の売上は前年から35.6%伸び、通期の売上成長見通しを「40%超」へ引き上げている。
私たちはいま、AI産業と呼べる新しい産業の誕生に立ち会っている
ウェイが繰り返すのは、需要が供給を上回っているという一言だ。最先端の回路の生産ラインは稼働率が100%を超え、チップを積み重ねて実装する工程(CoWoS)が最大の詰まり所になっている。
この詰まりを解くため、2026年の設備投資は$60〜64Bへ引き上げた。CoWoSの生産能力は年80%のペースで増強を続け、年末までに月12万5千〜13万枚を目指している。
台湾に集めたままでいいのか
TSMCの生産能力の大半はいまも台湾に集中している。米アリゾナ、日本熊本、独ドレスデンでも工場の建設・稼働を進めているが、最先端の回路は当面、台湾の工場が担う設計になっている。
海外工場の役割は、地政学リスクの分散というより、顧客企業の要請に応える意味合いが強い。米国政府や大口顧客が、供給網を自国内に置きたがっているためだ。
その台湾は、中国との緊張が続く場所でもある。政治的な危うさは、TSMCの株価が語られるたびに必ず添えられる注記だ。
顧客の集中も同じ性格を持つ。エヌビディアやアップルなど、ごく少数の大口顧客への依存度は依然として高い。
ウェイ自身は2026年で73歳になった。後任について公にされた計画はなく、経営の重心がいつどう移るかはまだ見えていない。
この人を通して数字を読むなら
ウェイは創業者でも、派手な発明家でもない。他社を渡り歩いた技術者が、地道な微細化競争を勝ち抜いて頂点に立った経営者である。
だからTSMCの株を見るときは、四半期の売上以上に、CoWoSの生産能力がどこまで積み上がっているかを見るとよい。詰まりが解ければ、抱えている受注がそのまま売上に変わる。
一方で、台湾という一つの場所に生産を集めたままでいる判断は変わっていない。そこにある地政学の危うさは、業績の良し悪しでは消えない。
出典:
- Time, "C.C. Wei: The 100 Most Influential People of 2026" — https://time.com/collection/100-most-influential-people/2026/c-c-wei/
- The Motley Fool, TSM Q2 2026 Earnings Call Transcript(2026-07-16) — https://www.fool.com/earnings/call-transcripts/2026/07/16/tsm-tsm-q2-2026-earnings-call-transcript/
- Tech Times, "TSMC Posts Record Quarter as AI Chip Demand Pushes Full-Year Growth Outlook Past 40%" — https://www.techtimes.com/articles/320696/20260716/tsmc-posts-record-quarter-ai-chip-demand-pushes-full-year-growth-outlook-past-40.htm
- Taipei Times, "TSMC nets nearly 70% of 2025 foundry market"(2026-03-14) — https://www.taipeitimes.com/News/biz/archives/2026/03/14/2003853777
- taiwan.md, "C. C. Wei: Born 1953, from NCTU Electronics to Yale PhD to TSMC Chairman and President" — https://taiwan.md/en/people/cc-wei/





