量子コンピュータの関連株は、値動きの荒さでよく話題になる。1日で4割動くこともある。ただ、その荒さの理由を「技術がまだ未知だから」で片付けると、肝心なところを見落とす。
見るべきは決算だ。主要6社の直近の数字を確かめると、はっきりした共通点がある。製品が継続的に売れている会社は、まだ1社もない。
まず、会社ごとに何が違うのかを整理する。
何で計算するかで分かれる
イオンを並べる方式のアイオンキュー (IONQ)は、真空中に原子を一列に浮かべて操作する。原子そのものを使うので個体差が出ないのが強みで、絶対零度まで冷やす巨大な冷凍機も要らない。従来はレーザーで操作していたが、最新の第6世代では電子回路で操作する方式に変え、半導体の量産設備を使えるようにした。
超伝導の回路を使うのがリゲッティ (RGTI)だ。金属の回路を絶対零度近くまで冷やし、そこを流れる電流の状態を計算に使う。大きなチップを1枚作るのではなく、小さなチップを貼り合わせて数を増やす戦略を採っている。
光の粒で計算するのがザナドゥ (XNDU)とクアンタム・コンピューティング (QUBT)。光ファイバーや光チップの上で計算するので、超伝導方式とは土台から違う。
ディーウェーブ (QBTS)だけは毛色が違う。用途を組み合わせ探しに絞った専用機で、配送ルートや人員配置のような「膨大な選択肢から良い答えを探す」問題に特化している。汎用の計算はできない代わりに、実用化は他社より早いという立ち位置だ。
もう1社、アーキット (ARQQ)は量子計算機そのものを作らない。「将来の量子計算機に破られない暗号」の作り方をソフトとして売る、いわば保険を売る商売になる。
「売上」の中身を見ると景色が変わる
方式の違いより重いのが、売上の中身だ。6社の直近の決算を確かめると、こうなる。
アイオンキューの2026年4〜6月期の売上は$80.1Mで前年比287%増と、数字だけ見れば急成長だ。だが同じ期の営業損失は$337.2Mで、売上の4倍を超える。しかもこの売上の相当部分は、2025年以降に買収した会社が売る人工衛星のレーダー画像や精密な原子時計から来ている。会社は事業別の内訳を開示していないため、量子計算そのものがいくらなのかは外から確かめられない。
リゲッティの2025年通期の売上は$7.1Mで、前年の$10.8Mから3割減っていた。2026年上期は$9.5Mへ戻したが、主力の9量子ビット機の開始価格は$900,000で、買い手は大学や国の研究機関だ。年に数台という商売の規模を、時価総額はまったく別の前提で見積もっている。
クアンタム・コンピューティングは特に注意がいる。2025年通期の売上は$682千——会社全体の年商が、中小企業1社ぶんしかなかった。2026年に入って売上は増えたが、作って売るのにかかる費用が売値を上回っており、粗利の段階ですでに赤字だ。売れば売るほど赤字が増える状態にある。
ザナドゥについては、監査法人が決算書に「事業を継続できるかに重要な疑義がある」と付記している点を知っておきたい。手元資金だけを見れば当面は保つ計算になるが、会計上はこの但し書きが付いている。
アーキットの2026年度上期の売上は$623Kで、契約は11件。1件あたりの平均は約$57Kになる。この金額からして、本格導入ではなく試し導入が中心の段階だ。それでも直近12か月の売上に対して約340倍の時価総額が付いている。
崩れ方には共通の型がある
第一に、自社と関係ない一言でセクターごと崩れる。2025年1月8日、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが「本当に役に立つ量子計算機は15〜30年先」と述べた日、アイオンキューは1日で37%、リゲッティは45%下げた。業績発表でも自社の失敗でもない、他社のCEOの発言でこれだけ動く。
第二に、増資で1株の価値が薄まり続ける。稼ぎがないので、開発費は株を発行して賄うほかない。アイオンキューは2025年10月に1株$93で$2.0Bを調達したが、2026年8月10日の終値は$42.53と調達価格の半値以下だ。発行済株式は1年で約5割増えている。
第三に、売上の中身を突かれる。2026年2月、空売り機関がアイオンキューについて「過去の売上の大半は国防予算の特別枠に由来し、それが打ち切られたことを開示していない」「量子と無関係な会社を買って売上を穴埋めしている」と指摘し、株価は一時11%下げた(会社側は虚偽だと反論している)。ディーウェーブも2025年に「アニーリングは行き止まりだ」とする報告を受けている。
この銘柄群との付き合い方
技術としての量子計算に将来性があるかどうかと、いまこの株を買うかどうかは別の問いだ。前者は専門家でも意見が割れるが、後者は決算を見れば判断材料が揃う。
確かめるべきは3つ。売上の中身は何か(本業の製品か、国の研究費か、買収して足した別事業か)。粗利は黒字か(売るほど赤字なら規模が増えても改善しない)。1年で株式が何割増えたか(増資のペースが速いほど、株価が上がっても持ち分は薄まる)。
主要銘柄の顔ぶれは量子コンピュータ銘柄のまとめで一覧できる。同じ方式で競うライバル同士の性格の違いは、アイオンキューとリゲッティ、ディーウェーブとクアンタム・コンピューティングの読み比べで並べて確かめられる。売上が乏しく夢が先行する銘柄群という点では宇宙関連株にも似た性格があり、数字ではなく崩れ方の癖から絞りたいときは性格で探すも使える。
本記事は仕組みの解説であり、特定の銘柄の購入をすすめるものではない。数値はいずれも各社の決算発表と報道で確認した2026年8月時点のものです。
