この記事の流れ(全6章)
2014 年、シスコは特許侵害でひとつの会社を訴えた。相手を率いていたのは、その少し前までシスコでスイッチ事業を率いていた本人だった。ジェイシュリー・ウラルの話である。
シスコで15年、スイッチ事業を$5B企業に
ウラルは 1961 年、ロンドンでインド系の家庭に生まれた。物理学者の父の仕事の関係で幼少期にニューデリーへ移り、現地の学校で育った。
サンフランシスコ州立大学で電気工学を学び、その後サンタクララ大学で経営の修士を取った。最初の職はフェアチャイルド・セミコンダクター、続いてAMDで高速メモリの設計に携わった。
1992 年、ネットワーク機器の新興企業クレセンド・コミュニケーションズに入る。翌 1993 年、この会社をシスコが買収した。シスコにとって初めての企業買収である。
ここからウラルはシスコのスイッチ事業(カタログ)を率い、ゼロから 2000 年時点で $5B 規模の事業に育てた。20 件近い買収も自ら手がけた。
- 1961ロンドンで生まれる、幼少期にニューデリーへ
- 1981サンフランシスコ州立大学で電気工学を修める
- 1993シスコがクレセンドを買収、シスコに合流
- 2000シスコのスイッチ事業を$5B規模に育てる
- 2008アリスタネットワークスCEOに就任
- 2014ニューヨーク証券取引所に上場同年、シスコが特許侵害でアリスタを提訴
- 2018シスコに$400Mを支払い和解5年間の係争停止で合意
- 2018S&P500種に採用8月28日
- 2026四半期売上が初めて$3Bを超える
15 年余りシスコに在籍したのち、2008 年 10 月にアリスタネットワークスのCEOに就任する。請われたのは創業者アンディ・ベクトルシャイムらからだった。当時はまだ社名を変えたばかりの小さな会社だった。
元同僚に訴えられた4年間
ウラルが去った直後のシスコとの関係は穏やかではなかった。2014 年 12 月、シスコはアリスタを特許侵害で提訴し、米国際貿易委員会は一時輸入差し止めを命じた。
2016 年、米国際貿易委員会と地方裁判所の判断でこの差し止めは覆り、シスコの主張の一部も退けられた。それでも係争は続き、決着したのは 2018 年 8 月である。
アリスタはシスコに $400M を支払い、両社は 5 年間、互いに係争を起こさないことで合意した。かつての勤め先と、正面から殴り合った 4 年間だった。
この間もアリスタの成長は止まらなかった。データセンター向けの通信機器という一つの分野に絞り、シスコが強い企業向け総合機器の市場を避けて育った。
AIが生んだ通信機器の作り直し
いま会社を押し上げているのは、AIを学習させる大規模施設向けの通信機器需要である。多数の計算装置を高速につなぐ配線がボトルネックになりやすい。
アリスタ2.0という戦略が効いている証拠だ。顧客はネットワークを、端末からクラウドまでを貫く中枢神経として見ている
「アリスタ2.0」とは、データセンター向けに絞ってきた戦略を、企業の拠点内ネットワーク(キャンパス)にまで広げる方針である。2026 年、この分野でも大手調査会社から高評価を受けた。
新製品では、毎秒 1.6 テラビットの通信を液冷でさばく機器を投入した。光でつなぐ配線の消費電力を、従来比で約 6 割減らせるという。
少数の大口顧客に支えられた成長
アリスタの成長を支えているのは、大規模な計算施設を自前で建てる少数の企業である。会社自身が開示資料で、特定の大口顧客への売上集中をリスクとして挙げている。
その企業群は、AIの計算装置を作るエヌビディアとも深い関係にある。エヌビディア自身も通信機器を手がけており、両社は協力しつつ一部で重なる領域を持つ。
大口顧客の設備投資が緩めば、この会社の成長にも波が及ぶ。ウラル自身、シスコ時代からネットワーク機器の需要循環を何度も見てきた経営者である。
創業者ベクトルシャイムのいま
創業者のベクトルシャイムは 2023 年 12 月に会長兼最高開発責任者を退き、いまは創業者兼チーフアーキテクトとして技術面に専念する。会社の株は 14.6% を持つ(2026 年の委任状時点)。ウラルは経営全般を担い、両者が技術と経営を分担する体制は 2023 年末まで続いた。
そのベクトルシャイムは 2024 年 3 月、別会社の買収情報を使ったインサイダー取引の疑いで証券取引委員会と和解した。制裁金は約 $92 万で、5 年間は上場企業の役員に就くことを禁じられている。
この人を通して数字を読むなら
ウラルは、かつての勤め先を正面から訴えられながらも同じ土俵で勝ち筋を作った経営者である。データセンターという一点に絞り込む判断が、いまのAI特需で報われている。
だからこの会社の株を見るときは、四半期の伸び率だけでなく、上位顧客への売上集中がどこまで薄まるかを見るとよい。企業向けキャンパス市場への広がりが、その分散の鍵になる。
エヌビディア自身が通信機器を強化する動きも見逃せない。協力相手が競合にもなり得るという、この業界特有の緊張関係のなかで経営が続いている。
出典:
- Arista Networks, Inc., "Arista Networks, Inc. Reports Second Quarter 2026 Financial Results"(2026年8月4日)— https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1596532/000159653226000174/ex991q226-earningsrelease.htm
- Wikipedia, "Jayshree Ullal" — https://en.wikipedia.org/wiki/Jayshree_Ullal
- Wikipedia, "Arista Networks" — https://en.wikipedia.org/wiki/Arista_Networks
- Arista Networks, Inc., Form 10-K(fiscal year 2025), U.S. Securities and Exchange Commission — https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001596532&type=10-K





