この記事の流れ(全6章)
2026 年 9 月 1 日、アップルのCEOの椅子は 15 年ぶりに持ち主を変える。次に座るのはジョン・ターナス、51 歳。発明家でも創業者でもない、25 年間ハードの現場に居続けた技術者である。
頭の動きだけで動く腕を、学生時代に作った
1975 年 5 月、米国カリフォルニア州生まれ。進学したのはペンシルベニア大学、専攻は機械工学である。授業のかたわら大学水泳部に所属し、自由形と個人メドレーで結果を残した。
卒業研究のテーマは、手足を自由に動かせない人のための給食用アームだった。頭の動きだけで操作できる仕組みを、自分の手で設計している。
1997 年に卒業後、最初の職場は仮想現実の会社バーチャル・リサーチ・システムズだった。ゴーグル型の表示機器を機械工学の側から作る仕事である。
アップルに入ったのは 2001 年、26 歳のとき。ジョブズが復帰して立て直しが進んでいた時期で、最初に任された仕事は外付けディスプレイの設計だった。
- 1975米国カリフォルニア州で生まれる
- 1997ペンシルベニア大学で機械工学を修める水泳部に所属。卒業研究は頭の動きで操作する給食用アーム
- 2001アップル入社(26歳)、外付けディスプレイの設計を担当
- 2005iMacのハード開発チームを率いる
- 2013ハードウェアエンジニアリング担当副社長に昇格
- 2020iPhoneのハードも担当、Macの独自半導体移行を発表6月のWWDCで自ら発表
- 2021ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長に昇格
- 2022アップルウォッチのハードも担当に加わる
- 2025iPhone Airを発表厚さ5.6mmの新機種
- 20264月、クックの後任に指名。9月1日にCEO就任へ取締役会が全会一致で決定
外付けモニターから、ハードすべてへ
ターナスの 25 年は、担当の範囲がじわじわ広がり続けた 25 年でもある。
最初はディスプレイだけ。2005 年に iMac のチームを任され、2013 年に副社長へ上がるころには Mac・iPad・AirPods のハード開発を束ねていた。
肩書だけでなく、開発の中身にも口を出してきた。iPad が発売から数年たっても iPhone と同じソフトのままだったとき、専用の基本ソフトを作るよう社内で押し続けたのはターナスだったと伝えられている。ソフト担当を説得して実現したのが、2019 年の iPadOS 分離である。ハード担当がソフトにまで口を出すのは、社内でも珍しい動きだった。
もっとも目立ったのは、2020 年に自らの声で語った発表である。Mac の頭脳を他社製から自社設計の半導体へ切り替えるという、10 年に一度の大転換をターナスが発表した。
2025 年 9 月には、厚さ 5.6mm の新機種「iPhone Air」を舞台で紹介している。「手の中で消えてしまうくらい薄くて軽い」と自ら形容した一台である。
開いた席を、25 年離れなかった
ターナスの働き方を語るとき、社内で必ず出てくる話がある。2011 年、当時の上司が退任するにあたり、空いた個室を譲ろうとした。
ターナスはそれを断り、部下たちと同じ開けたフロアに机を残した。元上司はのちに、彼を「みんなの中にいる人」と評している。
才能ある人たちが集まって、アップルらしいものを一緒に探し当てる。それがすべてだ
議論をすぐに実行へ移さず、粗いアイデアを人前に出す前に一緒に磨く。そういう進め方をする人だと、周囲は語る。
同僚づくりのうまさには定評がある一方、期待も重い。2024 年のビジョン・プロの立ち上げでは、原因の解消より先に責任の所在を探る場面もあったと報じられた。普段の彼らしくない、と評されたやり取りである。
仕事の外ではポルシェでのレース走行が趣味で、ラグナ・セカなどのサーキットに自ら車を持ち込む。チャーミングで人望が厚いと評されつつ、公の場での語り口はクックほど滑らかではないとも言われる。
受け継ぐ宿題は、追いつくことだ
ハードでの実績に異論は少ない。だが CEO として最初に向き合う宿題は、ハードの外にある。
マイクロソフトやグーグルが文章や画像を作る人工知能を次々に売り出すあいだ、アップルの音声アシスタントの刷新は延び続けてきた。
新しい人工知能機能は、最大の海外市場である中国ではいまも使えない。現地の許認可の壁が理由とされる。
人工知能は短距離走ではなく長距離走だ。積み上げていけば、日々の使い勝手は必ずよくなる
この「長距離走」という言い方は、裏を返せば当面は競合に後れを取り続けるという宣言でもある。投資家にそれを飲み込ませられるかが最初の関門になる。
初舞台は、就任からわずか 8 日後
2026 年 4 月 20 日、取締役会はターナスを次期 CEO に指名したと発表した。議長のアーサー・レビンソンは非業務執行議長を退き、筆頭独立取締役に回る。
彼は技術者の頭脳と、革新者の魂と、誠実に率いる心を持っている
ターナス自身は発表で「この使命を引き継ぐ機会に、心から感謝している」と述べ、アップルらしさを作ってきた価値観を守ると誓った。
9 月 1 日の就任直後、大きな試練が待つ。例年どおりなら 9 月 9 日前後に新型 iPhone の発表会が開かれ、折りたたみ式の新機種も控えているという。実現すれば、CEO として最初の大舞台になる。
供給網の数字を積み上げてきたクックと違い、ターナスは自分で図面を引いてきた側の人間である。経営の舵を握るのは、これが初めてだ。
この人を通して数字を読むなら
ターナスの強みは、25 年間ずっと現場から離れなかったことだ。iPhone Air のような新機種の細部にまで、いまも自分で目を通していると評される。
弱みは裏返しでもある。人工知能という、自分の得意分野の外にある宿題を、就任と同時に背負うことになった。
見るべき数字は 2 つある。ひとつは音声アシスタントの刷新がいつ形になるか。もうひとつは、中国で人工知能機能が使えるようになる時期だ。
どちらも期限は本人の口から語られていない。アップルの株を追うなら、まずこの 2 つの遅れが縮むかどうかを見るとよい。ハードの実績で買われてきた株が、次は何で買われるかが決まる場面である。
出典:
- Apple Newsroom「Tim Cook to become Apple Executive Chairman, John Ternus to become Apple CEO」(2026 年 4 月 20 日) — https://www.apple.com/newsroom/2026/04/tim-cook-to-become-apple-executive-chairman-john-ternus-to-become-apple-ceo/
- Apple Leadership: John Ternus — https://www.apple.com/leadership/john-ternus/
- Wikipedia「John Ternus」 — https://en.wikipedia.org/wiki/John_Ternus
- Fortune「Meet John Ternus, the 51-year-old former swimming champ who will succeed Tim Cook as Apple CEO」 — https://fortune.com/article/who-is-john-ternus-new-apple-ceo-tim-cook-retirement/
- AppleInsider「The person who could be Apple CEO: Who is John Ternus?」(2026 年 4 月 20 日) — https://appleinsider.com/articles/26/04/20/the-person-who-could-be-apple-ceo-who-is-john-ternus
- 9to5Mac「John Ternus was behind one of iPad's most crucial changes, says report」(2026 年 3 月 23 日) — https://9to5mac.com/2026/03/23/john-ternus-was-behind-one-of-ipads-most-crucial-changes-says-report/
- MacRumors「Apple Execs Say Spatial Computing Is 'Inevitable' and AI Is a 'Marathon, Not a Sprint'」(2026 年 4 月 16 日) — https://www.macrumors.com/2026/04/16/joz-john-ternus-ai-neo-interview/
- CNBC「Apple incoming CEO John Ternus faces a defining challenge: Fixing the company's AI strategy」(2026 年 4 月 20 日) — https://www.cnbc.com/2026/04/20/apple-new-ceo-john-ternus-faces-defining-challenge-fixing-ai-strategy.html
- 9to5mac「iPhone 18 Pro event date: Six years of Apple announcements」(2026 年 8 月 22 日) — https://9to5mac.com/2026/08/22/iphone-18-pro-event-date-when-announcement/
- Fortune「Apple CEO Tim Cook is stepping down, and hardware boss John Ternus will be new CEO」(2026 年 4 月 20 日、取締役会の全会一致決定に言及) — https://fortune.com/2026/04/20/apple-ceo-tim-cook-stepping-down-hardware-exec-john-ternus-new-ceo/





